11/07 (金)更新
特定技能外国人にも労災は適用される?企業が知るべき対応と補償のすべて
特定技能制度の拡大により、多くの外国人が日本の現場で働くようになりました。
製造、介護、外食、建設など、危険を伴う職場も少なくありません。そんな中でよく聞かれるのが、「特定技能外国人にも労災保険は適用されるのか?」という疑問です。
実際、特定技能で働く外国人も日本人と同様に労災保険の対象者として保護されます。しかし、企業側には加入義務や報告義務があり、対応を誤ると法的リスクや信頼失墜につながる可能性もあります。
この記事では、特定技能外国人に対する労災保険制度の仕組みや、企業が取るべき手続き・補償対応・安全管理体制までをわかりやすく解説します。
「もし労災が起きたらどうすべきか?」に備える実務的な内容をまとめています。
特定技能外国人にも適用される労災保険制度の基本

日本で働くすべての労働者は、労働基準法および労災保険法によって保護されています。
これは日本人だけでなく、特定技能外国人を含むすべての就労者に共通して適用される制度です。
特定技能外国人は在留資格に基づいて働く立場ではありますが、雇用契約を締結して労働を提供しているため、法的には日本人と同じ「労働者」として扱われます。
企業側が「外国人だから対象外」と誤解しているケースもありますが、労災保険の適用は国籍や雇用形態に関係なく義務となっており、加入を怠ると会社に重大な責任が生じます。
ここでは、特定技能外国人にも適用される労災保険の基本的な仕組みと、その法的根拠について整理します。
特定技能外国人も労災保険の対象になる理由と法的根拠
労災保険は、「労働者災害補償保険法」に基づいて、業務中や通勤中の事故・けが・疾病などを補償する制度です。
この法律では、「労働者」とは賃金を得て事業主の指揮命令下で働く者を指します。
したがって、在留資格が「特定技能」であっても、企業と雇用契約を結び、実際に働いている場合は完全に労災保険の対象です。
また、外国人雇用の有無にかかわらず、従業員を1人でも雇っている事業主には労災保険への加入義務があります。
未加入の場合、労災事故発生時には企業が自ら補償費用を負担することになり、重い行政処分を受ける可能性もあります。
業務災害・通勤災害の適用範囲と認定の基準
労災保険では、事故が「業務に起因するもの」か「通勤に起因するもの」かによって補償内容が異なります。
- 業務災害:就労中の転倒・機械による負傷・過労による疾病など、業務との因果関係が認められる場合。
- 通勤災害:自宅と職場間の通勤中に発生した交通事故など、通勤経路上の災害が対象。
特定技能外国人の場合も、これらの基準は日本人と同様に適用されます。
外国人であることを理由に労災申請を拒否されたり、補償が減額されたりすることは法律上あり得ません。
在留資格・雇用形態に関係なく保護される仕組み
労災保険は「在留資格」ではなく「労働実態」に基づいて適用されます。
たとえば、特定技能1号・2号、技能実習生、永住者、定住者など在留資格の種類を問わず、労働契約のもとで就労していればすべて労災保険の対象です。
また、雇用形態(正社員・契約社員・パート・派遣など)も関係ありません。重要なのは、事業主との雇用関係が存在しているかどうかです。
特定技能外国人の場合、登録支援機関が間に入っている場合でも、実際の雇用主(受け入れ企業)が労災保険の責任を負います。
まとめ:特定技能外国人も「日本の労働者」として平等に守られる
特定技能外国人も、日本の労働者として労災保険の完全な適用対象です。
業務中や通勤中の事故・疾病が起きた場合には、国籍や雇用形態に関係なく補償が受けられます。
企業は労災保険への加入を義務として履行し、外国人スタッフにも制度内容を正しく伝えることが大切です。
「知らなかった」では済まされないのが労災対応であり、正確な理解と周知が安全な職場づくりの第一歩です。
企業が負う労災加入義務と手続きの流れ

特定技能外国人を雇用する企業にとって、労災保険の加入と適切な手続き対応は法的義務です。
「日本人の社員だけが対象」と誤解している企業もありますが、労災保険は国籍・雇用形態・在留資格に関係なく、すべての労働者を保護する制度です。
特に外国人労働者を多く受け入れる現場では、万が一の事故時に備えて、正しい加入手続きと報告体制の整備が欠かせません。
ここでは、特定技能外国人を雇用する際に企業が負う労災保険の加入義務と、事故発生時の報告・請求手続きの流れについて詳しく解説します。
特定技能外国人を雇用する際の労災保険加入義務
日本の「労働者災害補償保険法」では、1人でも労働者を雇用している事業主には労災保険の加入が義務付けられています。
そのため、特定技能外国人を雇う企業は必ず労災保険に加入しなければなりません。
加入の手続きは、事業所を管轄する労働基準監督署に「労働保険関係成立届」を提出することで行われます。
建設業などの場合は元請事業者が一括して加入するケースもありますが、受け入れ企業(雇用主)自身が責任をもって手続きを行う必要があります。
未加入のまま労災事故が発生すると、企業が全額自己負担で補償金を支払う義務を負うことになり、さらに行政指導や罰則の対象になるおそれもあります。
労災が発生したときの報告・請求手続き
特定技能外国人が勤務中や通勤中にけが・事故・疾病を負った場合、企業には速やかな報告と手続きが求められます。
一般的な流れは以下の通りです。
- 事故発生直後の対応:けがの応急処置や救急搬送を行う。
- 労基署への報告:「労働者死傷病報告書」を所轄の労働基準監督署へ提出。
- 労災申請:本人または事業主が「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」などの必要書類を提出。
- 給付決定・補償実施:審査の後、病院への治療費や休業補償が支給される。
特定技能外国人の場合、書類の読み取りや記入が難しいケースもあるため、企業が支援することが重要です。
支援機関と連携して、必要書類の翻訳や申請補助を行うことで、迅速かつ正確な対応が可能になります。
外国人向けに必要な多言語説明と支援体制
外国人従業員が労災の仕組みを理解していないと、けがをしても「労災請求ができる」と知らずに自己負担で治療してしまうケースもあります。
そのため企業は、入社時のオリエンテーションで労災制度について多言語で説明し、理解を深めてもらうことが大切です。
厚生労働省やJACなどの公的機関では、労災制度に関する多言語リーフレット(英語・ベトナム語・ネパール語など)が配布されています。
これらを活用し、外国人労働者が安心して相談できる体制を社内に構築することで、事故後の混乱を防ぐことができます。
登録支援機関と協力して、「労災時の連絡先」「申請サポート窓口」などを共有しておく仕組みをつくることも有効です。
まとめ:労災加入は企業の義務、迅速対応が信頼を築く鍵
特定技能外国人を受け入れる企業には、労災保険への加入と事故時の迅速な対応が求められます。
労災は「誰にでも起こり得る」ものであり、未加入や手続き遅れは企業の信頼を大きく損なう要因となります。
労災対応の基本を理解し、外国人にもわかりやすい説明・支援体制を整えることが、安心して働ける職場づくりと人材定着につながります。
特定技能人材を「有期」から「無期」へ移行させる実務ステップ

特定技能制度では、1号(有期雇用)から2号(無期雇用)への移行が、外国人労働者のキャリア安定と企業の定着率向上を両立させる鍵です。
しかし、単に在留資格を切り替えるだけではなく、企業側が評価制度・支援体制・専門家連携を整えることが成功のポイントとなります。
ここでは、実務的に「有期」から「無期」へスムーズに移行させるためのステップを詳しく解説します。
評価制度・昇格基準を明確に設計する
無期雇用への移行に向けては、特定技能2号試験の合格が前提です。
企業は試験支援と同時に、評価制度や昇格基準を見える化し、外国人社員が自分の成長段階を理解できるようにすることが重要です。
- 職務・スキル評価を数値化したシートを導入
- 昇格条件(勤続年数・技能・語学など)の明文化
- 定期的なフィードバック面談を実施
明確な基準を設定することで、外国人労働者のモチベーションと試験合格意欲を高められます。
2号試験合格を支援する社内体制を整える
特定技能2号を目指す人材の多くは、仕事と勉強の両立に課題を抱えています。
企業は次のような体制を整えることで、合格率を上げることが可能です。
- 社内での試験対策勉強会やEラーニングの提供
- 模擬試験・学習支援のスケジュール管理
- 登録支援機関・専門教育機関との連携
実務教育と並行して知識習得を支援する仕組みが、長期的な成長と無期転換の実現につながります。
登録支援機関・行政書士との連携で切り替えをスムーズに
有期から無期への移行には、入管への書類提出や契約更新手続きが必要です。
専門家と連携することで、法的リスクを最小限に抑えながら迅速に対応できます。
- 契約書・在留資格更新書類の点検
- 入管申請スケジュールの管理
- 労働条件・雇用契約の適正化アドバイス
外部パートナーの支援を受けることで、申請手続きのミス防止とスムーズな移行を実現できます。
長期雇用を前提にしたキャリアプラン提示で定着を促す
無期雇用化の目的は「単なる契約更新」ではなく、外国人が安心して長く働ける環境の提供です。
そのため、企業はキャリアプランを明示し、将来像を共有することが欠かせません。
- 無期雇用後の職位・給与モデルを提示
- リーダー職・管理職へのキャリアステップを設定
- 永住・家族帯同支援の方針を明確化
これにより外国人社員は「長期的に働く価値」を感じ、離職防止と定着率向上が期待できます。
まとめ:計画的な支援で“無期雇用化”を実現
有期から無期への移行は、企業と外国人の双方にとって大きな転機です。
評価制度・教育支援・専門家連携・キャリア提示をバランスよく行うことで、形式的な制度変更ではなく、真の「長期雇用関係」を築くことができます。
労災トラブルを防ぐための職場づくりと安全管理

特定技能外国人を雇用するうえで、労災を未然に防ぐ職場づくりは欠かせません。
特に外国人社員は、言語や文化の違いによって危険を正しく理解できない場合もあります。
企業が安全教育やコミュニケーション支援を徹底することで、事故の防止と信頼関係の構築につながります。ここでは、労災トラブルを防ぐために実践すべき安全管理のポイントを紹介します。
安全教育・危険予知トレーニング(KYT)の実施
労災防止の第一歩は、現場教育の充実です。特定技能外国人が日本の労働環境に慣れるためには、危険予知トレーニング(KYT)などを定期的に実施することが効果的です。
- 作業前の指差し呼称や確認手順の徹底
- 実際の現場映像や図を使った多言語対応教材の活用
- 教育記録を残し、労基署監査にも対応できるようにする
このような取り組みは、事故の未然防止と安全意識の浸透に直結します。外国人スタッフが自ら危険を察知し行動できる力を育てることが重要です。
日本語サポートを活かした労災防止コミュニケーション
外国人社員の多くは、安全指示を十分に理解できないまま作業してしまうリスクを抱えています。
そこで企業は、日本語サポートや翻訳ツールを活用し、**「伝える力」ではなく「伝わる仕組み」**を整える必要があります。
- 作業マニュアル・安全標識を日本語+母国語で掲示
- 現場リーダーが簡易日本語で指示を出す訓練を実施
- 翻訳アプリや写真付きチャットツールを利用した指示確認
言葉の壁を超えた明確なコミュニケーションが、誤解による事故やヒューマンエラーの防止につながります。
事故発生時の迅速な報告・支援体制の確立
万が一、労災事故が起きた場合には、即時の報告・対応フローが必要です。特に外国人が被災者となる場合、言語や在留資格の問題で対応が遅れやすいため、あらかじめ支援体制を整えておくことが大切です。
- 事故発生時の**社内連絡ルール(誰が、何を、どこへ報告するか)**を明文化
- 外国人にも分かる多言語の緊急対応マニュアルを配布
- 登録支援機関・行政書士・労基署との迅速な連携体制を構築
早期報告と正確な対応によって、二次被害の防止や補償手続きの円滑化が期待できます。
まとめ:安全教育と支援体制で「守られる職場」をつくる
労災を防ぐためには、企業が教育・言語・対応体制の3点をセットで整備することが欠かせません。
特定技能外国人が安心して働ける環境をつくることは、事故防止だけでなく、企業の信頼性向上と人材定着にもつながります。
安全を「指導するもの」ではなく「共に守る文化」として定着させることが、これからの時代の職場づくりの鍵です。
外国人労働者が安心して働ける環境をつくる実践ポイント

労災の防止や安全対策を行っても、「働く環境」そのものが安心できない職場では、外国人労働者の定着は難しくなります。
特定技能人材が長期的に活躍するためには、日々の健康管理・メンタルケア・法的支援・復職サポートまでを含めた総合的な支援体制が必要です。
ここでは、外国人が安心して働ける職場を実現するための実践的ポイントを解説します。
日常的な健康チェックと相談窓口の整備
外国人労働者は、文化や生活習慣の違いから体調不良やストレスを抱えても言い出せないケースが少なくありません。
そのため、企業は日常的な健康チェックと相談体制を整えることが大切です。
- 健康診断だけでなく定期的なヒアリング面談を実施
- 体調・メンタル不調を匿名で相談できる社内・外部窓口の設置
- 相談内容を共有する際は、本人のプライバシーを尊重する運用を徹底
こうした仕組みが、**「困ったときに頼れる職場」**という信頼感を生み、離職防止にもつながります。
登録支援機関・行政書士との連携によるリスク対策
特定技能制度では、支援体制の不備が企業リスクに直結します。
法的な対応や入管への報告義務を怠ると、受け入れ停止などの行政指導を受けるおそれがあります。
そこで、登録支援機関や行政書士と連携し、法令遵守とリスクマネジメントを行うことが重要です。
- 登録支援機関と月次支援・生活支援の進捗共有を行う
- 行政書士に労災や在留資格関連の手続き相談を定期依頼
- 緊急時に迅速対応できる連携体制・連絡網を構築
これにより、万が一のトラブル発生時にも、法的にも人的にも安心できるサポート網を維持できます。
労災後の復職支援とキャリア継続サポート
労災が発生した場合、補償金の支給だけでなく、復職後のフォローが極めて重要です。
外国人労働者は、ケガや長期療養を経た後に「居場所を失うのでは」と不安を感じやすいため、企業が復職支援を積極的に行うことが信頼回復の鍵となります。
- 回復状況に応じた段階的な業務復帰プランを策定
- 労災期間中も社内とのつながりを保つ情報共有・面談を継続
- 復帰後にモチベーションを取り戻せるよう、キャリア面談や再教育を実施
こうした「復職後のケア」があることで、外国人社員は**“この会社で働き続けたい”という安心感**を持つようになります。
まとめ:支援体制の充実が“安心して働ける職場”をつくる
外国人労働者の定着を支えるのは、給与や待遇だけではありません。
健康・法務・復職の3つの支援軸をバランスよく整備することで、職場全体の信頼性と満足度が高まります。
特定技能人材が安心して働ける環境を整えることは、企業のリスク対策であると同時に、持続可能な人材戦略の第一歩といえるでしょう。
まとめ:特定技能人材の「安全と安心」を守ることが企業の責務

特定技能外国人にも、日本人と同様に労災保険が適用されることは法律で明確に定められています。
雇用形態や在留資格にかかわらず、業務中・通勤中のケガや病気があった場合は、企業には報告・補償・再発防止の義務が生じます。
そのため企業は、下記の取り組みをおこない「安心して働ける環境」を整えましょう。
- 労災保険の加入・手続き体制を整えること
- 労働安全教育やKYT(危険予知トレーニング)の実施
- 多言語サポートや相談体制の構築
また、上乗せ保険制度や復職支援の仕組みを導入すれば、外国人労働者の信頼を得られるだけでなく、企業の人材定着率・社会的評価の向上にも直結します。
労災は「起こしてから対応するもの」ではなく、「起こさないために備えるもの」です。
特定技能人材の安全と権利を守ることは、国際的な信頼を築く第一歩であり、企業の持続的な成長を支える重要な要素といえるでしょう。
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