
09/19 (金)更新
特定技能の直接雇用とは|派遣がNGな理由と企業が守るべきルール
近年、日本の特定能制度を通じた外国人雇用が進む中で、とくに注目されているのが「直接雇用」という働き方です。
特定技能制度では、技能実習のような期間限定の「実習」ではなく、受け入れ企業が直接雇用契約を締結し、長期定着を見据えた体制整備を行うことが求められます。
この記事では、以下のポイントを分かりやすく、かつ網羅的に整理しています。
- 技能実習制度と何が異なるのか、直接雇用がなぜ制度上の基本とされているのか
- 建設・介護・農業など、直接雇用が原則とされる業種とその理由
- 企業側に求められる条件(労働条件や支援体制など)と実務体制の整備
- 直接雇用にまつわるトラブル例とその予防策
- 実務で即活用可能な採用・定着のポイント
企業の実務担当者や人事責任者の方が、「制度を知る」だけでなく「即、実践できる」内容となるよう構成しています。
この導入を起点に、順に読み進めていただければ、特定技能の直接雇用で起こりうる疑問や課題の解決に繋がるはずです。
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特定技能の直接雇用とは?制度の基本と背景を理解する
特定技能制度は、日本の深刻な人手不足を補うために2019年に導入された外国人雇用の新制度です。
この制度の大きな特徴のひとつが「直接雇用が原則」であること。
技能実習制度では監理団体を介した間接的な関係も存在しましたが、特定技能では、雇用主と外国人本人が労働契約を直接結ぶことが制度の根幹となっています。
本セクションでは、「なぜ特定技能では直接雇用が基本となっているのか」、また「技能実習とどう違うのか」といった点について、制度設計の背景にまで踏み込みながら解説します。
技能実習との違いと「直接雇用」が求められる理由
技能実習制度と特定技能制度の大きな違いは、目的と契約形態にあります。
技能実習は「技術移転」を目的とする研修的な制度であり、日本企業が海外の若者を“育成”する位置付けでした。
一方、特定技能制度は即戦力としての労働力確保が主な目的です。
そのため、特定技能では「職業能力が一定以上あること」が前提とされており、労働者として正式に雇用される必要があります。
監理団体を介する必要もなく、受入れ企業と特定技能外国人が直接雇用契約を結ぶことで、労働条件や責任の所在を明確にしています。
この直接契約により、外国人労働者が「労働者」として法的保護を受けやすくなり、企業も人材の定着や育成を長期的視点で進めやすいというメリットがあります。
なぜ派遣ではなく直接雇用が原則なのか
制度上、特定技能では派遣契約は禁止されています。
これは、技能実習制度において起きていた「責任の曖昧さ」「労働条件の不一致」などの問題を回避するための措置です。
派遣の場合、雇用主と実際の就労先が異なるため、以下のような課題が生じやすくなります。
- 労働条件の相違(賃金や労働時間など)
- トラブル時の責任の所在が不明確になる
- 外国人本人の相談先やサポート体制が曖昧になる
こうした背景を踏まえ、特定技能では企業が直接雇用することで「一元管理」し、適正な労働環境を整備することが求められているのです。
ただし、建設分野など一部では例外的に派遣的就労が認められるケースもありますが、その場合でも登録支援機関を通じた明確な支援体制の構築が必須となります。
▷直接雇用は制度の信頼性と継続性を担保する鍵
特定技能制度における「直接雇用」は、単なる制度上のルールではなく、労使双方の信頼関係を築くための重要な柱です。
技能実習からの移行を検討する企業にとっても、直接雇用を前提とする体制整備は不可欠であり、制度趣旨に沿った適正な運用が求められます。
今後、特定技能外国人の安定した受け入れと長期定着を目指すには、企業が制度の背景と目的を理解し、「直接雇用=人材戦略の起点」と捉えて行動することが重要です。
特定技能での直接雇用が求められる業種と例外的な対応
外国人労働者を即戦力として受け入れる「特定技能制度」において、企業側が必ず理解すべきルールの一つが「雇用形態」に関する規定です。
制度の基本原則として、特定技能外国人は受入れ企業との直接雇用が義務付けられており、原則として派遣的な就労は禁止されています。
ただし、一部の分野では例外的に派遣的な働き方が認められており、2025年現在もそのルールは明確に定められています。
本セクションでは、分野ごとに異なる雇用形態のルールと、例外となるケースについて詳しく解説します。
建設・介護・農業など分野別の雇用形態ルール
特定技能制度では、以下のような多くの主要分野で直接雇用が原則とされています。
- 建設
- 介護
- 工業製品製造業
- 宿泊
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 飲食料品製造業 など
これらの分野では、外国人本人と受入れ企業が直接雇用契約を結ぶことが必須であり、第三者を介しての派遣的就労は認められていません。
この直接雇用の義務化には、いくつかの重要な意図があります。
- 雇用関係の明確化 – 誰が雇用主なのかを明確にし、責任の所在を一本化する
- 労働条件の適正管理 – 賃金や労働時間、福利厚生などを企業側が直接管理できる
- 外国人労働者の保護 – 相談窓口やトラブル時の対応を受入れ企業が直接担える
こうした制度設計により、労働者保護と雇用の安定性の両立が図られており、受入れ企業には「適正な直接雇用体制の整備」が求められます。
一部認められる派遣的就労(例外ケース)とは
原則として禁止されている派遣的就労ですが、例外として認められているのが「農業」と「漁業」の2分野です。
これには、業務の特性や季節的な繁閑の波が大きく関係しています。
農業や漁業では、繁忙期だけ一時的に多くの労働力を必要とする状況が頻繁に発生します。そのため、以下のような柔軟な運用が制度として認められています。
- 受入れ機関が直接雇用契約を締結
- 別の事業所での就労が可能
- 期間限定・業務限定の範囲で就労先を柔軟に変更可能
つまり、完全な派遣契約とは異なり、「直接雇用のまま、別現場に派遣的に就労させる」という形式が容認されているのです。
このような制度的特例は、地域の実情や産業構造に配慮したものであり、持続可能な労働力供給を確保する現実的な手段として活用されています。
ただし、農業・漁業以外の分野では、2025年現在も依然として派遣的就労は禁止されており、制度の拡充によって今後変わる可能性はあるものの、現時点では厳格に制限されています。
▷自社の業種ルールを把握し、正しい雇用形態で受け入れを
特定技能制度における雇用形態は、「直接雇用が原則、派遣的就労は極めて限定的」という明確なルールがあります。
特に建設・介護・製造業など主要な分野では直接雇用が必須条件となっており、適切な労働管理体制の構築が企業には求められます。
一方で、農業や漁業といった例外的分野においては、繁忙期対応を前提とした派遣的就労が可能であることも理解しておくべきです。
受入れ側の業種ごとに異なる制度ルールを把握し、法令遵守のもとで適正な雇用を進めることが、制度運用の信頼性と継続性につながるでしょう。
直接雇用に必要な条件と企業側の準備事項
特定技能制度で外国人を直接雇用するためには、受入企業に対してさまざまな条件や体制整備が求められます。
ただ「雇うだけ」で済む制度ではなく、外国人が安定的に働ける環境を整備する義務があるため、企業側の理解と準備が不可欠です。
このセクションでは、直接雇用の前提となる企業の基準や支援体制構築に関するポイントを詳しく解説します。
受入企業に求められる基準(労働条件・賃金・労務管理体制)
まず、受入企業が満たすべき条件は、日本人と同等以上の処遇を基本としたものです。
以下のような基準を満たしていないと、直接雇用は認められません。
- 賃金水準 – 同じ業務に従事する日本人と同等以上の水準であることが義務。
- 労働時間・休暇制度 – 労働基準法や労働契約法に準拠し、適正な時間管理・休日取得を可能とする体制が必要。
- 労働保険・社会保険の加入 – 健康保険・厚生年金・雇用保険への加入は必須。
- 住居の確保支援 – 外国人労働者が安心して生活できる住環境を提供する必要あり。
- 適切な労務管理体制 – 勤怠管理、トラブル対応、母国語支援など、多文化対応ができる仕組みが求められます。
特に、建設・介護・宿泊分野などでは、他国籍人材との共生に配慮した体制整備が期待されています。
違反や条件未達があれば、制度からの排除や更新不可のリスクもあるため、慎重な対応が重要です。
外国人支援計画と支援責任者・担当者の配置義務
特定技能の直接雇用では、外国人支援計画の提出と実行が必須です。
この支援計画とは、外国人が日本で安心して働けるように生活面・職場面での支援内容をまとめたものです。
具体的には以下のような支援が求められます。
- 生活オリエンテーション(交通ルール、ゴミ出し、医療機関の利用など)
- 日本語学習の機会提供
- 相談対応(母語もしくは理解できる言語での対応)
- 定期的な面談の実施
- 転職時・退職時の適切な手続き説明
これらの支援を遂行するために、企業は以下の役割を担う人材を明確に配置しなければなりません。
- 支援責任者 – 支援計画の総括責任を持つ者。通常は管理職が担うことが多い。
- 支援担当者 – 実際に日々の支援を行う実務担当。外国語対応や生活相談などを担う。
これらの担当者情報は出入国在留管理庁に申請時に提出する必要があり、人的体制が不十分な場合は受入不可となります。
中小企業では外部の登録支援機関を活用するケースも多く、社内か外部かを含めた支援体制の検討が必要です。
▷企業の制度理解と支援体制構築がカギ
特定技能外国人を直接雇用するには、単なる労働契約にとどまらず、雇用管理と支援体制の両輪が求められます。
日本人と同等以上の処遇を提供し、生活支援・言語サポートなどを確実に行うことが前提条件です。
さらに、支援責任者・担当者の配置や、日々のフォロー体制の整備も不可欠です。
これらを怠れば不許可や制度利用停止となる可能性もあるため、企業は制度理解を深め、社内外の支援体制を早めに構築しておくべきでしょう。
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直接雇用に関する注意点とよくあるトラブル事例
特定技能制度において、企業は外国人労働者と直接雇用契約を結ぶことが原則とされています。
しかし、制度の理解不足や運用の誤りによって、意図せず制度違反やトラブルを招くケースも少なくありません。
特に「実質的には派遣労働と変わらない雇用実態」や「労働条件の食い違いによる早期離職」などは、行政指導や契約無効につながるおそれもあります。
このセクションでは、直接雇用におけるよくある落とし穴とその予防策について詳しく解説します。
間接的な派遣契約と見なされるリスク
特定技能では、派遣的な就労形態は禁止(農業・漁業を除く)されており、企業が直接雇用しているにもかかわらず、実質的に派遣とみなされるケースが発生することがあります。
たとえば以下のような例です。
- 実際の勤務場所が受け入れ企業ではなく、他社の工場や施設である
- 日々の指揮命令を第三者(別会社の担当者)が行っている
- 雇用主が業務実態を十分に把握していない
このような状態は「偽装請負」や「違法派遣」と判断される恐れがあり、制度違反として受入停止やビザの取消に発展する可能性があります。
こうした事態を防ぐためには、以下の点を厳密に守る必要があります。
- 就労場所や業務内容は雇用契約書に明記
- 業務指示・評価・教育は受入企業自身が実施
- 実態と契約内容の整合性を定期的に確認
とくに多拠点展開している企業は、現場レベルでの統一管理が疎かになりやすいため、管理責任の所在を明確にする社内ルールの徹底が重要です。
労働条件の不一致による離職トラブルの防止策
もう一つの大きな問題は、労働条件の認識違いによるトラブルです。
日本語の理解度や文化的背景の違いから、特定技能外国人が雇用契約書に記載された内容を十分に理解しておらず、以下のような不満が蓄積される場合があります。
- 「聞いていた賃金と違う」「残業が多い」「休日が取れない」
- 「家賃補助があると思っていた」「転勤があるとは知らなかった」
これらの誤解は、結果的に早期離職や労働局への相談に発展することが多く、企業の信頼低下や受入れ資格の取消リスクにもつながります。
このような事態を防ぐには、以下の対策が効果的です。
- 雇用契約書は翻訳版(母語)を必ず用意
- 雇用前の生活・労働条件説明会の実施(通訳を同席)
- 定期的な面談やアンケートで不満の早期発見
- 勤務開始後も外国人支援担当者が継続的にフォロー
また、制度の趣旨や日本の労働慣行を事前に丁寧に伝えることも、誤解防止には欠かせません。
とくに初めて外国人を雇用する企業では、登録支援機関の協力を得ることでトラブルリスクを大幅に軽減できます。
▷直接雇用でも「実態と契約の整合」が不可欠
特定技能制度における直接雇用は、形式的な契約だけでなく、実態との一致が求められます。
たとえ契約書上では直接雇用でも、指揮命令や業務実態が他社にある場合は制度違反とみなされるリスクがあるため、運用面まで丁寧に確認する必要があります。
また、外国人との情報ギャップを放置すれば離職トラブルにも直結します。
企業は契約前後の説明責任を果たし、支援体制を強化することで、制度トラブルの未然防止につなげていくことが重要です。
正しく制度を活用することで、長期的かつ安定的な人材確保が可能になります。
特定技能外国人の採用を成功させるための実務ポイント
特定技能制度を活用して外国人を採用する際、制度理解や法令順守だけでは安定した就業と定着にはつながりません。
実務の現場では、言語・文化・生活習慣の違いに配慮した丁寧な対応が欠かせません。
特に初めて外国人を雇用する企業では、「雇ったけどすぐ辞められてしまった」「生活支援まで手が回らない」といった課題が起きやすく、結果的に人材確保に失敗するケースも見られます。
このセクションでは、特定技能外国人の採用を円滑かつ継続的なものとするために、企業が実践すべき具体的なポイントを解説します。
採用前面談・通訳の活用
採用活動の初期段階である面談・選考フェーズは、ミスマッチを防ぐうえで極めて重要です。
言葉の壁や文化的ギャップによって、本人の意向や期待がうまく伝わらないまま雇用に至ると、後のトラブルの原因になります。
そこで有効なのが、面談時の通訳の同席や翻訳ツールの活用です。
可能であれば、母語を話せる担当者や登録支援機関のスタッフと連携し、本人の希望や不安、価値観をしっかりヒアリングする機会を設けましょう。
また、採用前には以下のような内容を明確に伝える努力も重要です。
- 実際の業務内容と勤務場所
- 就業時間・休日・残業の有無
- 社宅や寮、交通アクセスなど生活面の条件
- 将来のキャリアパスや更新可能性
このような事前説明を通して、企業と本人の相互理解が深まれば、採用後のギャップを最小限に抑えることができます。
雇用契約書・就業規則の多言語対応
採用が決まった後、必ず交付する必要があるのが雇用契約書と就業規則ですが、日本語のみで作成された書類では、外国人労働者にとって内容を理解することが困難です。
特定技能制度では、母国語での説明義務が明確に定められており、実務上も以下の対応が求められます。
- 雇用契約書の翻訳版(英語、ベトナム語、インドネシア語等)を併記
- 就業規則・給与規定・福利厚生などの要点を多言語で要約し配布
- 契約締結前に、通訳の立会いで丁寧な内容確認を行う
仮に翻訳が難しい場合でも、登録支援機関や専門業者と連携することで、法令順守と本人理解の両立が可能です。
形式的な交付ではなく、「理解してもらう」ことを重視した対応が信頼構築につながります。
受け入れ後の定期面談・フォロー体制の整備
採用後も、外国人労働者が日本の職場や生活に順応できるかどうかは企業側の支援体制次第です。
業務には慣れても、生活面や職場環境への不安が解消されないと、離職リスクが高まります。
特に導入すべきなのが、以下のような定期的なフォロー体制です。
- 月1回以上の面談で勤務状況・悩み・体調を確認
- 日本人スタッフとのコミュニケーション状況のチェック
- 社外生活での問題(住居・健康保険・公共手続きなど)の相談窓口設置
また、外国人本人だけでなく、上司・同僚に対しても外国人との接し方や文化的配慮の教育を行うと、相互理解が進み、社内での孤立も防げます。
外国人支援責任者・担当者の明確な配置と育成が、定着率の向上と制度活用の継続には不可欠です。
必要に応じて、登録支援機関と契約し、生活支援を委託することも現実的な選択肢です。
▷受け入れ成功の鍵は“実務運用の工夫”にあり
制度的な準備だけでは、特定技能外国人の採用は成功しません。
採用前の丁寧な面談と説明、契約書類の多言語化、受け入れ後の継続支援まで、実務レベルでの対応が極めて重要です。
とくに中小企業では、小さな誤解や不安が大きな離職原因になることもあるため、現場での対話とフォローを重視しましょう。
こうした積み重ねが、外国人材の定着と、企業にとっての持続可能な人材活用につながっていきます。
まとめ|特定技能の直接雇用は制度理解と準備がカギ
この記事では、特定技能制度における直接雇用の意義と注意点について、制度の背景から業務現場で気をつけたいポイントまで包括的に解説してきました。
以下に要点を整理します。
- 直接雇用の制度的背景
- 特定技能制度では外国人と企業間の直接契約が基本であり、業務や責任の明確化を図るための仕組みであることが重要。
- 対象分野と例外の扱い
- 建設や介護、工業製造など主要分野では直接雇用が義務。農業・漁業では季節変動対応として例外的に派遣的就労が認められている。ただし、あくまで例外的措置。
- 企業に求められる準備と体制整備
- 労働条件や賃金、労務管理体制を日本人と同等以上に整備し、外国人支援計画を策定、支援責任者・担当者を明確に配置する必要がある。
- 注意すべきトラブル事例
- 形だけの直接雇用にならないよう、実態と契約が合致しているかを常に確認することが大切。また、労働条件の認識差からの離職を防ぐために、面談・フォロー体制の構築が欠かせない。
- 実務での成功要因
- 採用から定着までの流れで「コミュニケーション」「書類の多言語整備」「定期的な確認と相談体制」がある企業は、制度をうまく活かして外国人材の定着に成功している。
特定技能の直接雇用制度は、ただ雇用するだけでなく、外国人も受け入れる企業も安心・安定できる環境づくりを前提としています。
それを実現するためには、制度の目的を理解し、企業として必要な準備と体制整備を早期に始めることが成功の鍵です。
制度活用にあたっては、正しい知識や実務ノウハウの習得・社内共有・外部支援の活用が重要です。
ぜひこの記事を参考に、安心で持続可能な特定技能受け入れ体制構築にお役立てください。
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