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12/05 (金)更新

特定技能で“在籍型出向”はOK?企業が知るべき最新ルールとリスク

外国人材の活用が拡大するなかで、「特定技能外国人を他社に出向させることはできるのか」という相談が増えています。

特に建設業や製造業などでは、繁忙期・閑散期のバランスを取るために在籍型出向(雇用関係を維持したまま他社で勤務させる仕組み)を検討する企業も少なくありません。

しかし、特定技能制度では原則として出向や派遣が禁止されており、条件を誤ると不法就労助長や在留資格取消のリスクにつながる恐れもあります。

本記事では、特定技能外国人における出向の可否と例外的に認められるケースを整理したうえで、在籍型出向を実施する際に企業が押さえるべき契約・届出・リスク管理のポイントを解説します。

さらに、出向制度を人材育成や企業間連携の戦略的手段として活用するための実践的アプローチも紹介します。

制度の誤解を防ぎ、適法かつ効果的に外国人材を活かすために、企業担当者が今知っておくべき内容をわかりやすくまとめました。

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特定技能外国人における出向の基本ルール

特定技能制度では、外国人労働者の就労先や雇用形態に関して厳格な制限が設けられています。

なかでも多くの企業が誤解しやすいのが「出向」や「在籍型出向」の扱いです。

日本人社員では一般的な出向制度ですが、特定技能外国人の場合は原則として認められないという大前提があります。

ここでは、その理由や例外的に認められるケースを整理していきます。

原則として在籍型出向は認められない理由

特定技能の在留資格は、雇用契約を結んだ特定の企業(所属機関)との間でのみ就労が認められる仕組みです。

つまり、雇用関係を維持したまま他社に出向させる「在籍型出向」は、契約上の所属と実際の労働場所が異なる状態となり、原則として制度上認められません。

その背景には、以下のような目的があります。

  • 外国人本人の就労・生活を安定的に管理するため
  • 不適切な多重就労や搾取行為を防ぐため
  • 雇用主(所属機関)が支援計画を責任をもって実施するため

これらの理由から、特定技能制度では「雇用主=就労先」という原則が明確に定められています。

特定技能における就労形態の制限(複数企業での就労禁止)

特定技能外国人は、在留資格上一度に就労できる企業は1社のみとされています。副業や兼業、他社でのアルバイトといった複数就労も原則禁止です。

たとえば、製造業で雇用された特定技能外国人が、他社の工場に一時的に勤務することは、形式上「出向」や「派遣」に該当し、不法就労とみなされるリスクがあります。
このため、企業間の人員融通や季節的な人手補填を目的とする場合は、「出向」ではなく正式な転籍手続きを取る必要があります。

建設業など一部業種での例外的容認の背景

もっとも、すべての業種で出向が一律禁止というわけではありません。建設業など業務の性質上、現場単位での人員調整が不可欠な分野では、政府が在籍型出向を“例外的に”認める方針を示しています。

この例外措置の背景には以下の事情があります。

  • 建設現場ごとに受注状況が変動するため、人材配置に柔軟性が必要
  • 受入企業間の技術・安全基準を共有する目的での一時的な出向が有効
  • 出向元・出向先双方が責任を負う体制を整えることで、管理・監督の実効性を担保できる

ただし、この「例外的容認」は厳格な条件付きであり、国土交通省や出入国在留管理庁への事前相談・届出が求められるケースもあります。

特定技能における出向は“例外中の例外”として慎重に対応を

特定技能外国人の出向は、原則禁止という制度設計のもとで、ごく限られた条件下でのみ例外的に認められる仕組みです。
特に在籍型出向を行う場合は、所属機関の責任範囲、支援計画の継続、雇用契約内容の整合性など、通常の雇用以上に厳密な管理が必要となります。

企業としては、「便利だから」「一時的な人手不足対策になるから」と安易に判断せず、制度上の根拠とリスクを明確に把握したうえで、法令順守の体制を整えることが求められます。

在籍型出向を行う際の条件と企業の注意点

特定技能外国人の在籍型出向は、原則として認められていないものの、建設業など一部業種では条件付きで例外的に容認されています。

しかし、その実施には厳密な法的要件と手続きが伴い、適切な管理を怠ると不法就労や雇用契約違反に該当するリスクがあります。

ここでは、出向を実施する際に押さえておくべき契約・体制・行政対応の3つのポイントを整理します。

雇用契約・出向契約における法的整理

在籍型出向を行う場合、出向元と出向先の企業間で明確な契約関係と責任分担を定める必要があります。
特定技能外国人の雇用契約は出向元(所属機関)と継続しつつ、出向契約で就労場所・職務範囲・期間・賃金支払い責任などを明確にすることが求められます。

主な契約上の整理ポイントは以下の通りです。

  • 出向元が引き続き「雇用主」として在留資格上の責任を負うこと
  • 出向先企業での業務内容が、特定技能制度上の就労可能業務範囲内であること
  • 賃金・社会保険・安全衛生などの労働条件が、日本人と同等以上であること
  • 支援計画(生活支援・相談体制など)を継続的に実施できること

特に、契約書上で「実質的に派遣と同様」とみなされる条項(指揮命令権が出向先に全面的に移るなど)は避けるべきです。
法的には「出向」と「派遣」の境界が非常に曖昧であるため、契約文言と運用の整合性を保つことが不可欠です。

受入企業・出向元それぞれに求められる要件

在籍型出向を実施するには、出向元・出向先の双方に明確な要件があります。
特に受入企業は、通常の外国人雇用以上に管理責任と体制整備が求められます。

【出向元(所属機関)に求められること】

  • 在留資格の管理、支援計画の実施、報告義務を継続的に果たす
  • 出向中の安全確保・生活支援体制を維持する
  • 労働条件や勤務状況を定期的にモニタリングする

【出向先(受入企業)に求められること】

  • 適切な労働環境・安全衛生管理を整備する
  • 出向目的や期間を明確にし、一時的な人員補填ではないことを証明できること
  • 出向元との間で人事・労務管理に関する責任範囲を文書で定義しておくこと

このように、在籍型出向を行う場合は、両社の役割分担が制度上の要件として明確化されていることが前提です。

行政への届出・監督強化への対応ポイント

特定技能外国人の在籍型出向を行う際には、行政への報告・届出義務も発生します。
特に建設業では、国土交通省および出入国在留管理庁への事前相談や届け出が求められるケースがあり、適切な書類管理と手続きを怠ると行政指導や改善命令を受けるリスクがあります。

また、在留資格の更新時や定期報告の際に、

  • 出向期間・就労場所・業務内容が変更されていないか
  • 支援計画が実施されているか
    といった点が詳細にチェックされます。

企業側は、これらの監督強化に備えて、契約書・支援計画・勤怠記録を常に最新状態で管理し、万が一の監査にも耐えうる体制を構築することが大切です。

法的整備と管理体制を徹底することが“適法出向”の鍵

特定技能外国人の在籍型出向は、単なる人員の融通ではなく、厳格な法的管理のもとでのみ成立する例外措置です。

企業が安全に運用するためには、雇用契約と出向契約を適切に整理し、双方の責任範囲を明確にしたうえで、支援・報告・監査対応を一体的に管理する体制が求められます。

つまり、出向を「制度の抜け道」として使うのではなく、法令遵守を前提に、企業成長と人材育成を両立させる仕組みとして設計することが成功の鍵といえるでしょう。

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特定技能出向を企業成長と人材育成に活かす新たなアプローチ

特定技能制度における「出向」は、原則として厳しく制限されていますが、制度の本質を理解したうえで適切に運用すれば、人材育成・業界全体のスキル向上につながる可能性を秘めています。

特に建設・整備・製造といった技術集約型の業界では、在籍型出向を通じてノウハウの共有や教育効果を高める仕組みとして活用できる場面が増えています。

ここでは、特定技能出向を「人材戦略」として捉える新たな視点から、企業成長と外国人材の定着を両立させる実践的なアプローチを紹介します。

在籍型出向を通じたスキル共有と教育効果

在籍型出向を適正に活用すれば、単なる人員の一時的な補填にとどまらず、スキルの水平展開と教育の相乗効果を生み出せます。

たとえば、技術力の高い企業に特定技能外国人を一時的に出向させることで、

  • 最新の整備技術や安全管理手法を現場で習得できる
  • 異なる現場文化に触れ、実践的な応用力を磨ける
  • 帰任後に自社内教育者としてスキルを還元できる

といった教育的メリットが得られます。

特に製造・整備・建設業などでは、技能実習で得た基礎技術をさらに発展させる場として、在籍型出向を“実地型スキルアップ研修”として位置づける企業も増えています。
このように、法令遵守のもとで設計された出向は、企業間での人材育成プラットフォームとして大きな価値を持ちます。

複数企業間での連携による人材ネットワークの構築

特定技能出向のもう一つの活用価値は、企業間ネットワークの形成です。

単独の企業では教育や配置に限界がありますが、出向制度を通じて複数企業が協働すれば、「地域・業界単位の人材育成エコシステム」を構築することが可能です。

たとえば、整備業界では大手・中小企業・部品メーカーが連携し、

  • 共通の技能教育カリキュラムを共有
  • 特定技能外国人が各社で段階的に経験を積む仕組みを構築
  • 技術者コミュニティを形成し、離職リスクを軽減

といった業界横断的な人材循環モデルが現実味を帯びています。
こうしたネットワークは、外国人材にとっても「キャリアの見通しが立つ」メリットがあり、長期定着・高いモチベーション維持にもつながります。

出向リスクを抑えるための契約・管理体制のポイント

一方で、制度上の制約を踏まえずに出向を行うと、不法就労や契約違反のリスクを伴います。
そのため、企業はスキル共有や教育目的の出向を実施する際にも、法的リスクを最小限に抑える管理体制を整える必要があります。

具体的なポイントは次の通りです。

  • 出向元・出向先の双方で「出向契約書」を作成し、期間・業務範囲・報酬責任を明確化する
  • 出向先企業での勤務内容が、特定技能の活動範囲内であることを確認
  • 支援責任者・担当者を明示し、生活・労務両面での支援体制を維持する
  • 定期的なモニタリング・報告体制を設け、行政への届出にも対応できる状態を保つ

特に、制度上の「派遣との線引き」は極めて重要です。
名目上の出向であっても、実態が派遣労働に近い場合は入管法違反と判断されるおそれがあります。

出向を“違法リスク”ではなく“成長の仕組み”として再設計する

特定技能における出向は、制度上の制約が多い一方で、正しい理解と管理体制のもとで運用すれば、企業成長と人材育成を同時に実現できる制度でもあります。

スキルの共有、業界全体での人材循環、外国人のキャリア形成支援──。
これらを意識的に組み合わせることで、在籍型出向は単なる「例外措置」ではなく、次世代の人材戦略ツールとして機能します。

重要なのは、出向を“法の抜け道”として扱うのではなく、制度の趣旨に沿って、外国人と企業がともに成長できる形に再構築することです。
その姿勢こそが、持続的な雇用と信頼性の高い外国人雇用環境を築く第一歩となるでしょう。

まとめ:特定技能の「出向」はリスク管理と制度理解が成功の鍵

特定技能制度における出向、特に在籍型出向は、原則として認められていないものの、建設業など一部業種では厳格な条件付きで例外的に容認されています。

しかし、その運用を誤ると、不法就労・契約違反・行政処分といった重大なリスクにつながるため、企業は「制度の趣旨」を正しく理解し、慎重な対応が求められます。

本記事の要点まとめ

  • 特定技能外国人は、原則として1社専属での就労のみ認められる
  • 在籍型出向を行う場合は、雇用契約・出向契約・支援計画の整合性が必須
  • 出向元・出向先の双方で責任範囲・報告義務・支援体制を明確化する必要がある
  • 建設業などの一部業種では、技能共有・教育目的の限定的出向が例外的に許可される
  • 行政の監督が強化されているため、届出・モニタリング・法令遵守の徹底が重要

一方で、正しい手続きと管理体制を整えたうえで活用すれば、在籍型出向は単なる“例外措置”ではなく、企業成長・人材育成・業界連携を促進する仕組みとしての可能性を秘めています。

企業は短期的な人員調整の視点ではなく、外国人材の長期定着・スキル循環・教育効果という中長期的な視野で出向制度を捉えるべきです。
制度の枠組みを正しく理解し、「法令遵守 × 人材育成」を軸にした出向運用を行うことこそが、今後の外国人雇用における持続的な成功への近道となるでしょう。

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