
05/30 (金)更新
外国人介護福祉士の受け入れに必要な手続きとは?在留資格別チェックリスト
少子高齢化が進む日本において、介護現場の人手不足はますます深刻化しています。
こうした背景のもと、多くの介護施設や事業所が外国人介護福祉士の受け入れに注目していますが、その際に避けて通れないのが在留資格に関する正確な理解と手続きです。
一口に「外国人介護士」といっても、取得可能な在留資格は複数存在し、それぞれ取得要件や活動範囲、更新の可否、在留期間、雇用の自由度などに違いがあります。
また、国家試験の合格ルートや補助金制度の活用、雇用後の教育サポート体制など、採用から定着までを見据えた総合的な対応が求められます。
本記事では、外国人が介護福祉士として働くために必要な在留資格の種類と違いを明確に整理し、企業が採用前にチェックすべき手続きや支援策、雇用の注意点までを網羅的に解説します。
「どの在留資格で雇うべきかが分からない」「受け入れの流れを整理したい」といった企業担当者の悩みに応える内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
在留資格「介護」とは
外国人が日本で正規の介護福祉士として長期的に働くことができる唯一の在留資格が、「介護ビザ」、正式には在留資格「介護」です。
これは、日本国内の国家試験に合格した外国人に与えられるもので、他の介護関連ビザ(技能実習・特定技能・EPA)と比べて、自由度が高く、更新の制限も少ないのが特長です。
ここでは、「在留資格『介護』とは何か?」について、取得要件、活動範囲、他のビザとの違いなどを実務目線で解説します。
介護福祉士に合格した外国人が取得できる資格
在留資格「介護」は、介護福祉士国家試験に合格した外国人にのみ付与される特別な資格です。
取得までの流れとしては、次のいずれかのルートで日本国内の養成課程を修了し、国家試験に合格する必要があります。
- 福祉系専門学校や大学などの養成施設ルート
- 実務者研修修了後、介護現場で3年以上の実務経験を積む実務経験ルート
- EPA(経済連携協定)に基づく外国人候補生として来日し、国家試験に合格するルート
いずれのルートでも最終的に国家資格を取得する必要があるため、他の在留資格に比べてスキルと日本語能力が高い人材が多い傾向があります。
合格後は、就労先が限定されることなく、訪問介護を含む幅広い介護業務に正職員として従事できるのが最大の魅力です。
在留資格「介護」でできる業務内容
在留資格「介護」を取得した外国人は、介護福祉士として認められた範囲のすべての介護業務に従事することが可能です。
主な業務内容には以下のようなものがあります。
- 身体介護(入浴、排泄、食事の介助など)
- 生活援助(掃除、洗濯、買い物など)
- レクリエーションの企画・運営
- ご家族やケアマネジャーとの連携・報告
- 訪問系サービス(訪問介護)への従事も可能
訪問介護に従事できるという点は、在留資格「介護」特有のもので、技能実習や特定技能では原則認められていません。
このことからも、より高い専門性と信頼性が求められる業務を担える唯一のビザであることが分かります。
他の在留資格と比較した特徴(訪問系サービス・在留期間など)
在留資格「介護」は、他の在留資格(技能実習、特定技能、EPAなど)と比べて以下のような点で大きな違いがあります。
比較項目 | 在留資格「介護」 | 技能実習(介護) | 特定技能1号(介護) | EPA介護福祉士候補生 |
訪問介護の可否 | 可能 | 不可 | 不可 | 不可 |
在留期間 | 無期限(更新可能) | 最長5年 | 最長5年 | 原則4年間 |
雇用形態 | 正社員 | 限定職種・技能中心 | フルタイム可 | 学習+実習 |
日本語能力の基準 | 高い(国家試験合格レベル) | 中程度(N4程度) | 中程度(N4以上) | 高い(N3以上目標) |
転職の自由度 | 高い(ビザのまま可) | 原則不可 | 可(同一職種内) | 合格後は転職可 |
このように、在留資格「介護」は高度な専門職としての位置づけがされており、他の制度に比べて制度的自由度・就業範囲ともに優遇されていることが分かります。
その分、取得までのハードルも高いため、採用できれば即戦力として期待できる人材であると言えるでしょう。
▷在留資格「介護」は長期雇用・高スキル人材のカギ
在留資格「介護」は、国家資格を有する外国人にのみ与えられる、信頼性の高い在留資格です。
訪問系サービスに対応でき、在留期間も実質的に無制限。転職も可能で、企業にとっては柔軟性の高い正社員雇用が可能になる貴重な選択肢です。
他の制度と比べて要件が厳しい分、採用できた場合には、高い実務能力と日本語力を備えた戦力を得ることができます。
外国人介護人材を積極的に受け入れたいと考える企業にとって、在留資格「介護」の理解と活用は、今後の介護経営における大きなアドバンテージとなるでしょう。
外国人が介護福祉士になるための3つのルート
外国人が日本で「介護福祉士」として働くには、国家資格の取得が必要です。
そしてこの資格を取得するためには、大きく分けて3つのルート(養成施設ルート・実務経験ルート・EPAルート)が存在します。
それぞれのルートには、必要な学歴や実務経験、日本語能力の水準、在留資格の種類などが異なるため、自社にとってどのルートの人材が適しているかを見極めることが重要です。
この章では、各ルートの特徴や取得までの流れを具体的に解説します。
養成施設ルート(専門学校・大学など)
このルートは、外国人が日本国内の福祉系専門学校・短期大学・大学などに通い、介護福祉士養成課程を修了した上で国家試験を受ける方法です。
特徴
- もっともオーソドックスで安定したルート
- 2年〜4年の学習期間が必要(専修学校:2年、短大・大学:3〜4年)
- 学生ビザで在留し、卒業後に在留資格「介護」へ変更可能
メリット
- 学校でしっかりと専門教育を受けており、理論・実技の両面に強い
- 若年層が多く、長期的な雇用が期待できる
留意点
- 日本語能力がN2以上必要とされる学校も多く、語学レベルが鍵
- 学費や生活費などの経済的負担が本人にかかる
このルートを経た人材は、卒業後に即戦力として長期雇用できる可能性が高く、訪問系サービスにも対応できる有資格者となります。
実務経験ルート(実務者研修と3年以上の経験)
このルートは、外国人が介護職員として実務経験を積みながら資格取得を目指す方法です。
特に「技能実習」や「特定技能1号」で来日し、一定の条件を満たすことで、介護福祉士国家試験の受験資格を得られるルートです。
必要条件
- 3年以上の介護実務経験
- 実務者研修の修了
- 国家試験合格により「介護」ビザへ変更可能
メリット
- 実務経験に裏打ちされたスキルがある
- 働きながら学べるため、日本の職場文化にも適応しやすい
課題
- 実務経験の証明や研修修了の管理が必要
- 多忙な中で勉強時間を確保する必要がある
- 日本語の読み書きがネックになりやすい
実務経験ルートは、現場での即戦力として働きながら育成できるため、受け入れ先の事業者にとっても効率的なルートです。
EPAルート(日・アジア諸国との経済連携協定)
EPAルートは、日本がインドネシア・フィリピン・ベトナムなどと結んでいる経済連携協定に基づいて、介護福祉士候補者を受け入れる制度です。
特徴
- 来日前に日本語研修を受けた人材が渡日
- 原則4年間の滞在中に国家試験合格を目指す
- 合格すれば「介護」ビザへ変更し継続就労が可能
メリット
- 受け入れ事業所には国による支援・監督体制がある
- 日本語研修・介護教育が事前に実施されており、基礎が整っている
デメリット
- 試験に不合格だと帰国しなければならない
- プログラムに応募できる国籍が限られる
- 合格率があまり高くなく、受け入れに一定のリスクがある
EPAルートは、政府間の制度として運用されているため安心感があり、教育レベルも一定以上に保たれていることから、活用する企業も増えています。
▷人材確保はルート理解から。自社に合う道を見極めよう
外国人が介護福祉士になるためのルートには、
- 養成施設で学んでから合格を目指す方法
- 働きながらスキルを高める実務経験ルート
- 国際協定に基づいたEPA制度の活用の3パターンがあります。
いずれも国家試験の合格がゴールですが、在留資格の取得要件や支援制度、受け入れ企業側の対応範囲が異なります。
採用・育成の方針や、事業所の規模・体制に応じて、自社にとって最適なルートを選ぶことが、長期的な外国人介護人材の確保につながります。
外国人介護福祉士の国家試験と合格率
外国人が日本で介護福祉士として正式に働くためには、厚生労働省が実施する国家試験に合格することが必須条件です。
この国家試験は、日本人も同様に受験するものであり、専門知識・実務理解・日本語能力など総合的な力が問われます。
特に外国人受験者の場合、日本語の読み書きや専門用語の理解にハードルを感じやすく、受け入れる側の企業にも教育・サポート体制が求められます。
この章では、国家試験の内容、合格率の現状、日本語能力との関係、そして試験合格のための効果的な学習支援について解説します。
国家試験の実施内容(筆記・実技)
介護福祉士国家試験は、筆記試験と実務経験(または実技)評価によって構成されており、主に次のような内容が出題されます。
筆記試験の内容(全125問・5択式)
- 人間の尊厳と自立、介護の基本
- コミュニケーション技術、生活支援技術
- 医療的ケア、認知症の理解、発達と老化の理解
- 介護過程、社会の理解、介護保険制度など
この試験は年1回(1月下旬ごろ)実施され、合格基準は総合得点の60%程度(年度により若干変動)です。
実技について
- 実技試験は2016年度から実務者研修修了により免除されています。
- 実際には筆記試験合格+実務者研修の修了証明で国家資格が得られる仕組みです。
外国人の場合でも、内容は日本人と完全に同一であり、言語ハードルを乗り越える力が求められます。
合格率と日本語能力の関係
外国人受験者の合格率は、全体平均よりも低めに推移しているのが現実です。
直近のデータ(一例)
- 全体合格率:約70〜75%
- 外国人受験者の合格率:約45〜55%
この差の要因の多くは、日本語能力の違いによるものです。
介護福祉士試験は、漢字や専門用語を含む設問が多く、N3〜N2以上の日本語読解力が求められます。
また、「ひらがな・カタカナが読めても文章の意味を正確に理解できない」ことが、得点に大きな影響を及ぼすとされています。
したがって、合格を目指す上では介護知識の学習と並行して日本語力の底上げが不可欠となります。
試験合格のための学習支援・対策
外国人の国家試験合格には、受験者本人の努力だけでなく、周囲のサポート体制も成功の鍵となります。
よく用いられる支援の工夫
- 母国語対応の参考書や過去問集を用意する
- 日本語学習と介護用語の両立ができるeラーニングの活用
- 定期的な模擬試験や読解練習の導入
- 企業内でのOJTや先輩職員によるフォローアップ制度
特に有効なのは、介護の現場で使われる“日本語特有の言い回し”を集中的にトレーニングすることです。
また、厚生労働省や各自治体では、外国人介護職員向けに無料の対策講座や研修支援プログラムを提供している場合もあり、積極的に活用することが推奨されます。
▷合格への鍵は「日本語力」と「周囲の支援」
外国人が介護福祉士として日本で長期的に活躍するには、国家試験の合格が避けて通れないステップです。
筆記試験は内容が広く、日本語で専門知識を問われるため、高度な言語理解力と実務知識の両立が求められます。
成功のためには以下が重要です。
- N2以上を目指した日本語教育の強化
- 介護現場での実践と学習の融合
- 企業・学校・自治体による多角的な支援体制の整備
合格者には、在留資格「介護」への切り替えと安定的な雇用の道が開かれます。
だからこそ、試験対策は外国人本人に任せきりにせず、企業や教育機関が主体的に支援することが不可欠です。
外国人介護人材に対する補助金・支援制度
外国人介護人材の受け入れは、労働力確保というメリットだけでなく、教育・支援体制の整備や文化・言語の違いへの対応といった負担も伴います。
そこで国や自治体では、こうした課題に対応するために各種補助金や支援制度を整備しており、活用すれば受け入れにかかるコストや労務負担を大きく軽減できます。
この章では、介護事業者や学校が活用できる代表的な制度を、3つの観点から紹介します。
それぞれの内容と対象を理解することで、外国人材を安定的に受け入れる体制構築に役立てましょう。
自治体や厚労省の支援金制度
国と自治体は、介護人材の確保・定着を目的とした補助金制度を展開しています。
なかでも厚生労働省が中心となって行う「介護人材確保等支援事業」は、外国人材の受け入れを進める施設に対して手厚い助成を行っています。
具体的には以下のような支援があります。
- 外国人介護職員受け入れ支援事業費補助金
→ 介護施設がEPA候補者や特定技能者を受け入れる際の指導体制整備や研修費用、通訳配置費用などを補助 - 地方自治体の独自制度
→ 例:東京都「外国人介護人材受入促進事業費補助金」では、施設あたり数十万円規模の助成金を提供。通訳支援や相談体制整備が対象
ただし、多くの制度は自治体単位で異なるため、各都道府県の福祉保健局や介護事業支援窓口に最新の制度内容を確認することが必要です。
養成校・企業による教育サポート
補助金だけでなく、教育機関や受け入れ企業自身によるサポート体制も、外国人介護人材の定着において欠かせません。
多くの専門学校や福祉系大学では、外国人学生に向けて以下のような支援を実施しています。
- 日本語補講や介護用語特化の学習支援
- 国家試験対策講座の提供
- 生活支援(住宅、アルバイト紹介、ビザ更新支援)
一方、受け入れ先の企業では、OJTによる職場指導や、先輩職員とのメンタリング制度が有効です。
また、介護技術の習得に加えて、「日本独自の敬語・報連相・チームケアの文化」などを伝えることが、職場定着とスムーズな業務遂行につながります。
こうした教育支援に対し、国の助成金(キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金)を併用できる場合もあり、実質的な費用負担を抑える工夫が可能です。
介護福祉士取得後の定着支援策
介護福祉士国家試験に合格し、在留資格「介護」へ移行できたとしても、そこで終わりではありません。
定着こそが、外国人介護人材活用の成功の鍵です。
実際、介護施設で働く外国人の退職理由には以下のようなものが多く見られます。
- 職場に相談相手がいない
- キャリア形成のイメージが持てない
- 日本人との文化的ギャップに孤立感を覚える
そのため、合格後も継続して行うべきサポートには、次のようなものがあります。
- キャリアパス面談や昇給制度の明示
- 定期的なメンタルケアや個別面談の実施
- 母国語対応の相談窓口の設置(外部委託も可)
加えて、定着支援に活用できる制度もあります。
たとえば
- 「介護人材確保等支援交付金」(厚労省)では、定着率向上に資する取組への助成が受けられます。
- 特定技能外国人支援計画に基づき、登録支援機関との連携による支援の外部委託も可能です。
定着は単に“辞めさせない”ということではなく、「この職場で成長できる」と感じてもらえる環境づくりが肝要です。
▷制度と支援を活用すれば、外国人介護人材の受け入れはもっと前向きになる
外国人介護人材を雇用・育成・定着させるには、事業者だけで対応するのではなく、国や自治体、教育機関、外部支援機関の制度をうまく活用することが不可欠です。
特に意識すべきは以下の3点です。
- 補助金や助成制度は事前申請が基本。常に最新情報を確認すること
- 教育機関との連携や社内教育体制の整備が定着率に直結する
- 介護福祉士合格後も継続的なキャリア支援・心理的サポートが必要
コストと労力を軽減しながら、多様な人材を戦力として迎え入れるために、制度と支援の両輪を上手に活用していきましょう。
外国人介護職員として働ける4つの在留資格
介護人材の不足が続くなか、外国人の雇用は業界全体にとって重要な選択肢となっています。
しかし、ひと口に「外国人介護士」といっても、実際に介護職として就労できる在留資格は複数存在し、それぞれに対象者・期間・業務範囲・取得方法が異なります。
この章では、外国人が日本の介護現場で働ける主な在留資格として、以下の4種類を取り上げ、それぞれの特徴と注意点をわかりやすく解説します。
在留資格「介護」
在留資格「介護」は、介護福祉士国家試験に合格した外国人に付与される在留資格です。
これは4つの中で唯一、訪問介護(訪問入浴やホームヘルプなど)を含むすべての介護業務に従事できる資格であり、更新に上限がなく、永続的に働くことが可能です。
- 対象者 – 日本で介護福祉士国家試験に合格した外国人
- 活動内容 – 訪問系含む介護全般、正社員雇用が基本
- メリット – 転職自由度が高く、在留期間の制限もなし
- 課題 – 取得ハードルが高く、一定の日本語力と専門教育が必須
専門性と安定性を兼ね備えており、即戦力の正規職員としての活躍が期待される人材層です。
EPA介護福祉士候補生
EPA(経済連携協定)に基づく制度で、日本と協定を結んでいるアジア諸国(インドネシア・フィリピン・ベトナムなど)から介護福祉士候補者を受け入れる枠組みです。
来日前に日本語研修を受けた上で入国し、滞在中に国家試験に合格すれば「介護」ビザへ移行して長期就労が可能になります。
- 対象者 – EPA対象国の看護・介護系卒業生
- 活動内容 – 試験合格までの期間は施設内介護に限定
- 特徴 – 政府間の枠組みで信頼性が高い
- 課題 – 試験不合格の場合は帰国、合格率はやや低い
制度的に管理されており、教育・生活支援体制も整っているため、初めて外国人を受け入れる施設にも適しているといえます。
技能実習(介護分野)
技能実習制度の一環として、2017年より「介護分野」が正式に追加されました。
「技能を学ぶこと」を目的とした制度であり、外国人が日本で3〜5年間、介護業務を通じて技術・知識を習得することが期待されています。
- 対象者 – 主にアジア圏の若年層(日本語能力N4レベル程度)
- 活動内容 – 身体介護・生活支援など、施設内に限定
- 特徴 – 受け入れには監理団体と実習計画の認可が必要
- 課題 – 転職不可、訪問系サービスは従事不可
労働力確保の観点からは制約が多いものの、安定した教育体制を整えれば長期的な育成も可能です。
特定技能1号(介護分野)
2019年に創設された在留資格で、技能実習の修了者や、介護日本語評価試験・技能評価試験に合格した外国人が対象です。
即戦力の介護職員として働くことができ、技能実習よりも雇用契約や転職が柔軟なのが特徴です。
- 対象者 – 技能実習修了者、または試験合格者
- 活動内容 – 施設内介護(訪問系は不可)
- 在留期間 – 最大5年(更新あり)、更新中も在職必要
- 特徴 – 登録支援機関の支援が義務付けられる場合あり
特定技能1号は、制度的に柔軟性があり、施設側にも導入しやすい反面、在留期間の上限と転職ルールの理解が不可欠です。
▷在留資格ごとの特性を理解し、目的に合った採用を行おう
外国人を介護職員として受け入れる際は、在留資格によってできる業務、在留期間、更新条件、制度的支援の有無が大きく異なります。
それぞれの特性を整理すると以下のようになります。
在留資格 | 主な特徴 | 訪問介護 | 在留期間 | 転職可否 |
介護 | 国家資格保持者、自由度が高い | ○ | 無制限 | ○ |
EPA | 政府間協定、支援体制が手厚い | × | 原則4年 | △(合格後○) |
技能実習 | 教育目的、転職不可 | × | 最長5年 | × |
特定技能1号 | 即戦力、柔軟な雇用が可能 | × | 最長5年 | ○ |
採用の目的や受け入れ体制に応じて最適な在留資格を選ぶことが、安定した雇用と職場環境の維持につながります。
法制度や支援機関との連携も含め、継続的に学びながら制度活用を進めていくことが今後ますます重要になります。
4つの在留資格の比較ポイント
外国人介護職員を採用する際、制度や選考の選択肢は多岐にわたります。
中でも多くの事業者が迷いやすいのが、在留資格ごとの違いです。
「どの資格が訪問介護までカバーできるのか?」「更新のしやすさは?」「人材の質に影響する要件は?」など、比較すべき要素は少なくありません。
ここでは、外国人が介護職に就ける主な4つの在留資格(「介護」「EPA介護福祉士候補生」「技能実習」「特定技能1号」)について、採用判断に直結する4つの視点から徹底比較します。
日本語能力・学歴・試験要件の違い
介護職は人と接する職業である以上、日本語の習得度は業務の質に直結します。
また、在留資格ごとに求められる学歴や資格要件も異なり、人材の専門性にも差が出ます。
在留資格 | 日本語能力の目安 | 学歴要件 | 国家試験 |
介護 | JLPT N2以上 | 養成施設卒(専門・大学) | 必須 |
EPA | JLPT N3以上が目標 | 看護・介護系学科卒 | 必須(合格で残留可) |
技能実習 | JLPT N4程度 | 高校卒業程度 | 不要 |
特定技能1号 | JLPT N4以上+試験 | 特に問わない | 特定技能試験あり |
「介護」ビザを取得できる人材は、学歴・言語力ともに高く、資格を持っているため専門性が高いのが特長です。
一方、技能実習や特定技能は即戦力としての実務経験は期待できますが、日本語力や介護専門性は採用後に育てていくことが前提になります。
就労可能な業務範囲と訪問介護の可否
介護業務と一口に言っても、施設内の介護と訪問介護では求められる責任とスキルが異なります。
実際、在留資格によって従事できる業務範囲に制限があるため、どこまで任せられるかを把握することが重要です。
- 在留資格「介護」 – 訪問介護を含め、すべての介護業務に対応可能。正社員としての就労も可能。
- EPA介護福祉士候補生 – 試験合格後は「介護」ビザへ移行でき、同様の業務が可能。合格前は訪問不可。
- 技能実習・特定技能1号 – 訪問介護は不可。施設内での身体介護や生活支援に限定される。
訪問系サービスへの人材配置を考えている事業所は、「介護」または試験合格済のEPA人材に絞る必要があります。
在留期間と更新可否
人材を安定的に確保するためには、在留期間の上限や更新のしやすさも考慮すべきポイントです。
在留資格 | 初期在留期間 | 最大在留期間 | 更新の可否 |
介護 | 1~5年 | 制限なし(更新可) | ◎ 柔軟に対応可能 |
EPA | 原則1年ごと | 原則4年(合格で「介護」へ) | △(合格しなければ帰国) |
技能実習 | 1年→2年→2年 | 最大5年 | × 転職・延長不可 |
特定技能1号 | 1年更新 | 最大5年 | ○ 更新制限あり |
長期雇用や戦力化を図るなら、「介護」資格取得者が最も安定して雇用できる在留資格です。
一方、技能実習は5年で終了し、その後の雇用継続ができない点に注意が必要です。
転職や定住のしやすさ
外国人職員が定着しやすい環境をつくるためには、在留資格による「移動の自由度」や「定住への道筋」が用意されているかも重要な判断軸になります。
- 介護 – 転職自由(同一職種内)、配偶者ビザや永住ビザへの切り替えも比較的しやすい
- EPA – 合格後は介護ビザへ移行でき、将来的には定住も可能
- 技能実習 – 原則として転職不可。契約終了=帰国
- 特定技能1号 – 転職は可能だが、職種制限あり/定住ビザへの移行は難しい
つまり、長期的な人材確保・戦力化を目指すなら「介護」または「EPA合格者」が最も有利といえます。
▷制度を比較して、採用目的に合ったビザを選ぼう
外国人介護人材の雇用では、採用する在留資格の選定が、今後の人材定着・戦力化に大きな影響を与えます。
制度ごとに、就労範囲・更新制度・語学力・転職の可否が明確に異なるため、「なんとなく」で選んでしまうと後のトラブルやミスマッチの原因になります。
まとめると
- 即戦力・自由度・長期雇用を求めるなら「介護」
- 支援体制を活かした段階的育成なら「EPA」
- 短期労働力の確保なら「技能実習」や「特定技能」
それぞれの制度の特性を理解し、自社の採用ニーズと現場体制に合った選択を行うことが、外国人介護職員を活かす第一歩です。
外国人を介護職員として雇用する際の注意点
外国人介護職員の雇用は、慢性的な人手不足の中で有力な解決策として注目されています。
しかし、制度的な理解不足や社内体制の不備によって、せっかく雇用しても早期離職やトラブルにつながるケースが少なくありません。
円滑な受け入れと長期定着を実現するためには、「雇う前に知っておくべきリスクと準備すべき体制」を明確に把握しておくことが不可欠です。
この章では、外国人を介護職員として受け入れる際に特に注意すべき3つの視点について解説します。
在留期限と契約期間の整合性
外国人を雇用するうえでまず押さえておきたいのが、在留資格の有効期限と雇用契約期間のバランスです。
在留資格によっては、最長でも1年更新(特定技能)や、更新不可(技能実習)といった制限があるため、雇用契約をむやみに長期に設定してしまうと、契約違反や不法就労に発展しかねません。
たとえば
- 技能実習生に3年契約を結んでも、途中で監理団体や入管の事情で帰国が発生するケースもある
- 特定技能の更新タイミングと契約更新が合わないと、空白期間が生じて働けなくなる
雇用前には、必ず以下を確認する必要があります。
- 在留カードの有効期限
- 在留資格の更新条件
- 次回更新時の計画と本人の意向
契約期間の設定は、在留期間との整合性を取り、就業可能期間に見合った現実的な内容にすることが求められます。
言語・文化の壁とコミュニケーション対応
外国人職員との間では、日本語の微妙なニュアンスや文化的背景の違いが、誤解や摩擦を生む原因になりやすいのが現実です。
たとえば、以下のような問題が起こりがちです。
- 「報連相(報告・連絡・相談)」のタイミングや頻度がずれる
- 利用者への接し方で、日本特有の“空気を読む”文化に馴染めない
- 指示の言葉を文字通りに受け取り、臨機応変な対応が難しい
こうしたギャップを埋めるためには、単に日本語能力試験のレベルだけで判断せず、現場での実践的な日本語指導や、定期的な面談によるフォローが必要です。
また、職場内で多文化共生を意識した風土づくりも重要です。
具体的には
- 日本語に不慣れな職員にも分かりやすく伝える「やさしい日本語」の導入
- 翻訳ツールの活用や、マニュアルの多言語化
- 異文化に関する研修の実施(例:イスラム圏の食習慣など)
“わかるだろう”ではなく“伝える努力”が、定着のカギを握ります。
教育・フォロー体制の必要性
外国人職員に限らず、介護現場では「採用して終わり」ではなく、「定着と成長を支える仕組み」が欠かせません。
特に外国人の場合、日本の介護現場の文化・制度への適応に時間がかかるため、入職後のフォローが将来の戦力化に直結します。
教育・フォローで重要な点は以下の通りです。
- 介護業務の手順や方針を、視覚・動画などで分かりやすく伝える工夫
- 業務理解を確認するためのOJT体制の整備と進捗管理
- 困りごとを気軽に相談できる相談窓口や、同じ母語の先輩とのメンタリング制度
また、介護福祉士国家試験を目指す職員に対しては、学習時間や環境の配慮も必要です。
たとえば、夜勤明けに研修を入れない、試験前に有給を取りやすくするといった配慮が、合格率とモチベーションの維持につながります。
「辞めさせないための環境整備」ではなく、「長く活躍してもらうための育成投資」と捉えることが大切です。
▷制度理解と現場対応の両輪が成功の鍵
外国人介護職員の受け入れを成功させるには、制度的な確認と現場での実践対応の両立が不可欠です。
以下の3点を押さえておけば、採用後のトラブルやミスマッチを大幅に減らすことができます。
- 在留期限と契約期間を正確に照合すること
- 言語や文化の違いを前提に、職場全体での共通理解とサポートを整えること
- 継続的な教育・評価・相談体制を構築すること
人材不足の解消という目先の目的だけでなく、外国人職員が“この職場で働き続けたい”と感じられる環境づくりこそが、介護現場の未来を支える鍵になります。
介護福祉士試験に不合格だった場合の選択肢
外国人が日本で長期的に介護職として働くには、介護福祉士国家試験の合格が重要なステップです。
しかし、すべての受験者が一度で合格するとは限りません。
不合格となった場合、即時帰国を余儀なくされるのか?それとも再挑戦の道があるのか?
その判断には、現在の在留資格・制度上の制限・本人の意欲・企業側の体制など、さまざまな要素を冷静に見極める必要があります。
ここでは、国家試験に不合格だった場合の主な3つの選択肢について、制度ごとに整理します。
EPAルートでの再挑戦
EPA(経済連携協定)ルートで来日した外国人介護福祉士候補者は、原則4年間の滞在中に国家試験に合格する必要があります。
不合格となった場合、原則は帰国扱いとなりますが、例外的に再来日して再受験が認められるケースも存在します。
再挑戦の条件は以下の通りです。
- 本国に帰国してからの再来日(再申請)
- 受け入れ企業・支援団体による再受け入れ意思の表明
- 健康状態や過去の就労態度に問題がないこと
ただし、再入国には政府間手続きや本人の強い希望が必要であり、手間と時間がかかることは避けられません。
再挑戦の支援には、受け入れ企業の理解と継続的なサポート体制が求められます。
技能実習から特定技能1号への切り替え
技能実習生として介護職に従事し、一定の年数を経た人材が介護福祉士試験に不合格となった場合には、「特定技能1号」への在留資格変更が現実的な選択肢となります。
このルートのメリットは、以下の点にあります。
- 特定技能評価試験(介護技能+日本語)に合格すれば切り替え可能
- 最長5年間の在留と就労が認められる
- 業務内容は技能実習と同様(訪問介護不可)ながら、転職や労働条件に柔軟性あり
不合格後も引き続き介護業務に携わりながら、将来的に再度介護福祉士国家試験に挑戦することも可能です。
企業側としても、実務経験のある職員を引き続き雇用できるメリットがあります。
注意点としては、特定技能への移行には試験合格と支援計画の策定が必須であり、登録支援機関との連携が必要になる点です。
介護分野以外での在留資格変更の可能性
試験不合格後も日本での就労や滞在を希望する場合、介護分野以外の在留資格へ変更を検討するケースもあります。
たとえば以下のような選択肢が考えられます。
- 「特定活動(就職活動)」として一時的に在留を延長し、他業種の職を探す
- 「技術・人文知識・国際業務」などのビザが取得できる職種へ転職(学歴・職務内容要件を満たす必要あり)
- 配偶者ビザや家族滞在ビザへの切り替え(日本人との結婚や家族呼寄せなど)
このような選択肢は、本人の経歴や生活状況によって大きく左右されるため、専門家(行政書士・入管対応の弁護士)との相談が不可欠です。
介護職としての雇用は難しくても、本人の能力を活かせる別分野での活躍を支援することも、企業としての重要な役割といえるでしょう。
▷不合格は「終わり」ではない。支援次第で再スタートも可能
外国人介護福祉士候補者が国家試験に不合格となった場合でも、その後の進路は一つではありません。
EPAルートなら再挑戦の道があり、技能実習であれば特定技能への移行も現実的。さらには他分野での在留資格変更という柔軟な選択も可能です。
企業側の対応次第で、本人のキャリアも、職場の人材確保も前向きな方向へと転換できるチャンスがあります。
大切なのは、以下の3点を意識することです。
- 早めに在留期限・不合格時の選択肢を本人と共有しておく
- 切り替え可能なビザや制度を正しく理解しておく
- 本人の意欲を尊重し、必要な支援や相談先を提供する
不合格を一時の挫折とせず、再挑戦や別ルートでの成功へ導ける受け入れ体制を構築することが、今後の外国人雇用の質を高める鍵となります。
外国人介護福祉士の採用がもたらす組織的メリット
これまで外国人介護人材の受け入れは、主に「人手不足を補う手段」として語られることが多くありました。
しかし、実際に外国人職員が加わることで得られる価値は、単なる労働力の補完にとどまりません。
多様な文化や視点を持つ人材が加わることで、職場に新しい空気が生まれ、組織そのものが前向きに変化していく可能性を秘めています。
この章では、外国人介護福祉士を採用することで得られる組織的メリットについて、3つの観点から掘り下げていきます。
多文化共生の実現と職場の活性化
外国人職員の存在は、介護施設内に多文化的な視点をもたらします。
日々のやり取りや利用者との関わりの中で、日本人職員は自身の価値観や対応スタイルを見直す機会が増え、それが自然と職場全体の柔軟性や創造性を育てる要素になります。
また、言語や文化が異なる人と協働することで、スタッフ同士のコミュニケーションがより意識的・明確なものへと変わっていきます。
これにより、組織内に「誰にとっても働きやすい職場環境」を整える土壌が育ち、職員間の相互理解やチームワークも深まっていきます。
多文化共生は単なる理想論ではなく、実践を通じて“働き方そのもの”を進化させる触媒になりうるのです。
離職率の低下と長期雇用への貢献
介護業界における慢性的な課題の一つが、職員の高い離職率です。
この点において、適切な支援体制を整えたうえで外国人職員を迎え入れた施設では、意外にも定着率が高い傾向があることが各種調査でも示されています。
外国人介護福祉士は、資格取得までに多くの努力と準備を重ねており、「せっかく得た機会を大切にしたい」「職場で認められたい」という思いが強く、それが粘り強さや責任感として表れます。
受け入れ側がキャリアパスや生活面での支援を丁寧に行えば、日本人職員以上に長期的に働いてくれるケースも少なくありません。
さらに、彼らの安定した就業がチームに安心感を与え、新人教育や業務分担の観点からも職場の負担軽減につながるため、結果的に全体の離職率が下がる効果も期待できます。
海外展開・外国人顧客対応への布石
外国人職員の採用は、将来的なビジネスの展望にも直結します。
近年では、日本の介護サービスを海外に展開したり、外国人高齢者の介護ニーズが高まったりするケースも増加傾向にあります。
そのような状況において、既に外国人スタッフが在籍し、文化的・言語的対応力がある施設は、明らかに他より一歩先を行く存在となります。
外国人職員は単に“対応する人材”というだけでなく、多言語での情報発信や異文化マーケティングの担い手にもなり得ます。
また、母国とのネットワークを活かして、海外人材のリクルートや技術交流の窓口となる可能性もあります。
つまり、現在の受け入れ体制を整えることは、将来的なグローバル展開や多様な顧客層への対応力を養う「組織の資産」になるのです。
▷外国人介護福祉士は“人手”以上の価値を持つ存在へ
外国人介護福祉士の採用は、人手不足を埋める「労働力」としてだけでなく、職場文化・組織力・未来戦略における価値創出のきっかけとなります。
多文化の共生から生まれる柔軟な組織風土、粘り強く働く人材による安定運営、そしてグローバルな展開への布石。
これらはすべて、今この瞬間に“ひとり”の外国人職員を受け入れるところから始まります。
短期的な人材確保だけでなく、長期的な組織づくりの一環として、外国人介護福祉士の採用を前向きに捉えることが、介護現場に新しい力をもたらす第一歩となるでしょう。
制度理解と継続支援が、外国人介護福祉士受け入れ成功の鍵
外国人介護福祉士を受け入れる際には、単に人材を雇用するだけでなく、「どの在留資格で受け入れるか」「どのような支援を行うか」「どのように定着させるか」といった、制度と現場双方の理解が欠かせません。
本記事では、以下のような観点から体系的に解説してきました。
- 在留資格ごとの違いや特徴(介護・EPA・技能実習・特定技能)
- 介護福祉士になるためのルートと国家試験制度の詳細
- 各種補助金・支援制度の活用方法と教育支援体制の重要性
- 不合格時の進路選択や、組織にもたらす文化的メリットの可能性
これらを理解したうえで採用を進めることで、採用後のトラブルやミスマッチを防ぎ、長期的な安定雇用と職場の多様性向上につながります。
今後、介護現場の国際化は避けて通れない流れとなるでしょう。
だからこそ、制度に振り回されるのではなく、制度を理解し、活かす視点が求められます。
「人材不足への対処」から、「組織の未来戦略」へ。
外国人介護福祉士の受け入れは、その第一歩となるはずです。
ぜひ、自施設の状況に合った在留資格と支援体制を選び、確実かつ前向きな外国人雇用を実現していきましょう。
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