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07/11 (金)更新

技能実習生の問題とは?低賃金・失踪・ハラスメントの実態を解説

日本の労働力不足を補う存在として注目されてきた外国人技能実習生

 

しかしその一方で、低賃金長時間労働ハラスメント被害など、制度にまつわるさまざまな問題が社会的にも大きく取り上げられています。

 

特に、実習生の失踪件数の増加や、労働災害の多発といった事例は、「人材確保」という目的だけでなく、人権や安全管理のあり方を企業側に問う重要なテーマとなっています。

 

本記事では、技能実習制度の基本から、制度に潜む問題点、そして現場のリアルな声をもとに、企業が取るべき対策や今後の制度改革の方向性までをわかりやすく解説します。

 

外国人材を採用・活用したいと考える企業担当者にとって、制度の理解は不可欠です。

 

正しい知識を持ち、適切な対応ができるように、ぜひ最後までご覧ください。

技能実習制度とは何か?その目的と仕組み

日本の人手不足を補う制度の一つとして広く活用されてきた技能実習制度

 

もともとは開発途上国への技術移転を目的に導入されましたが、現在では製造業や建設、介護など、さまざまな分野で外国人労働者の受け入れ手段として位置づけられています。

 

しかし、その本来の趣旨と現場での実態の間にはギャップもあり、制度の再構築が求められている状況です。

 

このセクションでは、技能実習制度の基本的な仕組み目的在留期間の特徴特定技能制度との違いなど、制度理解のために押さえておきたいポイントを丁寧に解説します。

制度の概要と目的

技能実習制度は、日本の企業が開発途上国の人材に対して技術や知識を実務を通じて教えることにより、母国の産業発展を支援することを目的としています。

つまり、単なる労働力の確保ではなく国際貢献の側面を持った制度です。

しかし現実には、人手不足を背景に即戦力としての労働力補填の意味合いが強まっており、制度の目的との乖離が課題視されるようになっています。

在留期間や受け入れ形態の特徴

技能実習には3つの段階があります。

  • 技能実習1号 – 1年(基礎的な技能習得)

     

  • 技能実習2号 – 2年(より実践的な技能修得)

     

  • 技能実習3号 – 最大2年(優良な受入企業のみ可能)

合計で最長5年間の在留が可能です。

受け入れにあたっては、監理団体を通じた受け入れ型が一般的で、実習生本人の選定や来日手続き、生活支援なども団体が担います。

技能実習と特定技能の違い

技能実習と特定技能は混同されがちですが、制度の目的働き方の自由度も大きく異なります。

  • 技能実習 – 育成が目的で職種が限定され、転職が原則不可

     

  • 特定技能 – 労働力確保が目的で、一定条件下での転職も可能

技能実習から特定技能へ移行するケースも多く、移行の際には技能試験・日本語試験の合格が必要です。

👉関連記事:技能実習と特定技能の違いとは?移行するために知っておきたい制度と手続き

監理団体・送出機関の役割とは

技能実習制度は、企業が単独で外国人を受け入れるのではなく、「監理団体」と「送出機関」が制度運用をサポートします。

  • 監理団体(日本国内) – 受け入れ企業の指導監査、実習計画の適正確認、実習生の定期面談などを実施

     

  • 送出機関(実習生の母国) – 人材募集、選考、事前教育を実施

この2つの組織が連携することで、実習生と受け入れ企業の橋渡しが行われます。

ただし、ここに不正や制度上の隙が発生しやすく、トラブルの温床になるケースも指摘されています。

  • 制度の基本を押さえて適切な運用を

技能実習制度は、適切に運用すれば国際的な人材育成の場として有効に機能する仕組みです。
しかし、その背景には目的の形骸化運用体制の不備といった課題も潜んでいます。

特に企業が実習生を受け入れる際には、制度の枠組みや支援体制を正しく理解し、トラブルを未然に防ぐ対応が求められます。
次世代の国際人材戦略を描くための第一歩として、制度の本質を押さえることが重要です。

技能実習制度が抱える主な問題点

外国人労働者を対象とした技能実習制度は、開発途上国への技術移転という建前のもと、多くの実習生を日本の現場に送り出してきました。

 

しかし、その実態は「安価な労働力」としての扱いに偏っており、人権侵害や労働法違反が指摘されるケースが後を絶ちません。

 

本セクションでは、制度が抱える代表的な問題点を具体的に解説し、現場で起きているトラブルの実態を明らかにします。

低賃金・残業代の未払い

技能実習生の多くは、日本人労働者よりも著しく低い賃金で働かされているという指摘があります。

最低賃金を下回る例は減っているものの、手当や残業代が正当に支払われないケースは依然として存在します。

また、住居費や水道光熱費を不当に高額に設定されるなど、実質手取りが極端に少なくなる構造的な問題も見受けられます。

これらは「建前」と「現実」のギャップを象徴する深刻な課題です。

長時間労働・休憩時間の不備

実習という名目を利用して、過酷な長時間労働を強いる職場も存在します。

特に製造業や農業分野では、繁忙期に1日12時間を超える労働を強要される事例もあります。

また、法律で定められた休憩時間が取れない、あるいは休みの日に無給で作業を命じられるなど、労働基準法に抵触する運用が黙認されている現場も少なくありません。

失踪とその背景

法務省の統計でも、毎年数千人規模で技能実習生が失踪している実態が明らかになっています。

その背景には、以下のような要因があります。

  • 約束された待遇と現実の乖離

     

  • 上司からのハラスメント

     

  • 生活苦による精神的な追い詰め

     

  • より良い条件を求めた“転職的失踪”

失踪者の多くは不法就労状態となり、搾取のリスクが高まるため、企業だけでなく社会全体の問題となっています。

労災・事故の多発

技能実習生は慣れない環境下で作業を行うため、労災や事故の発生率が高いことが知られています。

特に建設業や工場などの現場では、安全教育が不十分なまま危険作業に従事させられるケースが散見されます。

言葉の壁があることで指示が十分に伝わらず、命に関わる事故に繋がる危険性も否定できません。

ハラスメント・暴力などの人権問題

職場内でのパワハラ・セクハラ・差別発言といった人権侵害は、技能実習生が最も相談しにくい問題の一つです。

上下関係が厳しい環境や、日本語が不自由なことを逆手に取って、泣き寝入りさせる風潮も問題視されています。

また、個人の尊厳を傷つけるような扱いを受けたことで、精神的に追い詰められ、うつ症状や自殺未遂に至るケースも報告されています。

犯罪への巻き込まれ・加担のリスク

失踪後の実習生が、やむを得ず不法就労や犯罪行為に巻き込まれる事例も無視できません。

実習制度の不備により“裏社会の労働市場”へ流入する構造が生まれ、本人だけでなく日本社会にも悪影響を及ぼします。

また、送り出し国とのネットワークを悪用して、人身売買的な構図に発展することもあり、国際的な人権問題としての側面も強調されています。

  • 制度の形骸化が実習生のリスクを生む

技能実習制度は、本来「人材育成」と「国際貢献」を目的とした制度ですが、実際には労働力不足の穴埋めとして運用される側面が強く、その結果としてさまざまなトラブルや人権問題が発生しています。

これらの問題を放置すれば、日本の労働環境への信頼は損なわれ、国際的な信用問題にも発展しかねません
企業や関係機関は、制度の目的と実態を見直し、実習生一人ひとりが尊重される環境づくりに本腰を入れることが求められます。

問題が起こる根本的な原因とは?

技能実習制度に関するトラブルは、表面的には「低賃金」や「長時間労働」といった労働条件に起因しているように見えますが、実はその背後には制度運用上の構造的な問題や、文化・認識のズレが深く関係しています。

 

このセクションでは、なぜ技能実習生との間で問題が発生しやすいのか、その本質的な原因を5つの視点から掘り下げ、企業や関係者が見落としがちなリスクを可視化します。

雇用側との認識のズレ

技能実習制度は本来「技術を学ぶ場」であるはずが、現場ではしばしば労働力確保の手段として扱われています。

企業側は「即戦力の安価な労働力」と捉える一方、実習生側は「専門スキルの習得」という目的で来日しています。

この認識の違いが、労働条件への不満や不信感、最終的な離職・失踪へとつながるのです。

雇用者側が「教育者としての責任」を持たず、単なる作業員として扱う限り、制度は本来の目的から乖離し続けます。

言語の壁による意思疎通の難しさ

日本語能力に乏しい実習生と、外国語に不慣れな日本人との間には、業務連絡や生活指導における伝達ミスが頻発します。

たとえば、危険作業の説明が正しく伝わらず事故につながったり、日常生活でのルールを理解できないままトラブルになることもあります。

また、実習生が困りごとを上手く相談できず、孤立やストレスを抱える要因にもなります。

実習生側の情報不足

多くの技能実習生は、来日前に制度や日本の労働環境に関する正確な情報を十分に得ていません

送り出し機関やブローカーが「夢を見せる」一方で、実態に触れる機会がほとんどないまま渡航してしまうのが現実です。

結果として、「聞いていた話と違う」「約束と違う」といった不満が募り、早期離脱やトラブルの温床になります。情報の透明性と教育体制の整備が急務です。

文化・宗教の違いによるストレス

食文化、宗教上の戒律、上下関係に対する考え方など、実習生が感じるカルチャーショックや価値観の違いも、問題の背景にあります。

たとえば、豚肉を口にできない宗教を持つ実習生に対して、無理解から無理に食べさせようとしたり、宗教的な礼拝時間を認めないケースもあります。

これらの積み重ねが精神的な圧迫感を生み、職場環境の悪化や定着率の低下につながります。

監理団体・送出機関の不正行為

制度を支える監理団体や送出機関の一部が、不正行為や利益優先の運用をしている現実も見逃せません。以下のような問題が存在しています。

  • 高額な紹介手数料の徴収

     

  • 実習生への過剰なペナルティ契約

     

  • 労働条件の隠蔽

     

  • 問題発生時の隠蔽体質

本来、実習生を守るべき立場の組織が制度を悪用してしまえば、トラブルは制度全体の信頼を揺るがす事態へと発展します。

  • 根本原因を直視せずして制度改善はない

技能実習制度のトラブルを真に解決するためには、単なる「労働環境の改善」だけでは不十分です。
雇用者の認識、言語支援、文化理解、情報提供、制度運営の透明化といった多角的な課題に正面から向き合うことが必要です。

問題を表層的に捉えるのではなく、本質的な原因を構造的に見直す視点を持つことが、実習生の安心と企業の信頼性を両立する第一歩となるでしょう。

外国人技能実習生のトラブル事例

技能実習制度には数多くの課題が指摘されていますが、実際の現場ではどのようなトラブルが起きているのかを知ることで、制度の本質的な問題がより明確になります。

 

このセクションでは、実習生と受け入れ企業の双方にとって重大な影響を及ぼす具体的なトラブル事例を取り上げ、それぞれがどのような背景で発生したのか、そして未然に防ぐための示唆を探ります。

労働条件のトラブル

多くの実習生が直面するのが、契約内容と実態の乖離です。

たとえば「週5日勤務・1日8時間」の契約にもかかわらず、実際には長時間労働が常態化し、残業代が支払われないケースが多発しています。

法定最低賃金を下回る賃金での労働や、休日が極端に少ないなどの問題も見られます。

また、「辞めたら国に帰れ」と暗に脅されるようなケースもあり、労働者としての基本的権利が軽視されている現状が浮き彫りです。

生活面での問題(孤立・金銭)

仕事以外の場面でもトラブルは多く、特に深刻なのが実習生の孤立です。

言語や文化の違いから地域社会や同僚との交流が困難で、誰にも相談できずに精神的に追い詰められる例もあります。

また、送出国で高額な手数料を支払い、借金を抱えて来日する実習生も多く、給与のほとんどを返済に充てざるを得ない状況に追い込まれ、生活費すらままならないことも。

金銭的な余裕がないことから、盗難などのトラブルに巻き込まれるリスクも高まります。

日本語や文化のギャップによる混乱

業務上の連絡が正確に伝わらない、生活ルールが理解されないなど、言語の壁による混乱は日常的に発生しています。

たとえば「ゴミの分別が分からず近所とトラブルになった」「危険作業の注意が理解できず事故に至った」など、日本での生活に関する知識不足や教育体制の不備が、誤解やミスを招いています。

さらに、日本独自の「察する」文化や上下関係への適応も困難を極め、実習生が悪気なく上司の指示を無視したと誤解される場面も少なくありません。

事件・事故に関わったケース

技能実習生が事件や事故の加害者または被害者となるケースも一定数報告されています。

たとえば、ストレスや孤立から暴力事件や窃盗事件に関わることもあれば、交通事故や工場での重大事故など、命に関わるようなケースもあります。

加害・被害どちらの立場にせよ、「制度の運用が未熟であったこと」が背景にある場合が多く、トラブルの再発防止には受け入れ体制の見直しが不可欠です。

  • トラブル事例から見えてくる“見えない課題”

外国人技能実習生のトラブルは、決して一部の事例ではなく、制度の構造的な弱点や現場の受け入れ準備不足が原因であることが分かります。
労働・生活・文化・安全といった多面的な支援がなければ、実習生は「学ぶ機会」どころか「安心して生活する権利」さえ脅かされます。

事例から学び、制度に活かす視点が企業・団体・行政それぞれに求められています。
実習生が安心して働き、暮らせる環境を整備することこそが、技能実習制度の本質を取り戻す鍵となるでしょう。

技能実習制度の問題への対策

技能実習制度は、当初の「国際貢献」という理念とは裏腹に、劣悪な労働環境や人権侵害といった問題が相次いで報告されています

 

しかし、こうした制度の課題に対し、行政や企業、監理団体の間では徐々に改善に向けた対策も進められています。

 

このセクションでは、具体的にどのような取り組みが行われているのかを5つの視点から詳しく解説し、より公正で透明性のある制度への転換を考察します。

適正な労働環境の整備

制度改革の第一歩として、実習生が安心して働ける労働環境の確保が求められています。

これには、最低賃金の遵守適正な労働時間の管理労働条件の明文化が不可欠です。

たとえば、契約書を多言語で作成したり、出勤・退勤時間をデジタルで記録するなど、制度的な整備とともに運用面での見直しが進められています。

また、住環境の改善やプライバシー確保も重要であり、寮の整備や監視カメラの運用に対する配慮も企業の責務とされつつあります。

定期的な相談・フォロー体制の構築

多くのトラブルは、相談できる相手がいないことから深刻化します。

そのため、企業や監理団体は定期的な面談第三者によるヒアリング体制を導入するなど、実習生の声を拾う努力が求められています。

たとえば、母国語で相談できるサポート窓口の設置や、LINEなどSNSを活用したコミュニケーション環境を整えることで、実習生の不安を早期に発見し対処することが可能です。

また、同じ国籍の先輩実習生をメンターにする制度も有効です。

社内理解と教育の強化

受け入れ企業の内部でも、実習生に対する理解不足がトラブルの原因になります。

そのため、現場の日本人従業員に対する異文化理解の研修や、適切な指導方法の教育が求められます。

特に、「察して動く」ことを求めがちな日本の職場文化は、外国人にとって大きな壁となります。

明文化されたマニュアルの提供や、シンプルな日本語での指示の徹底など、伝え方を工夫することが効果的です。

こうした教育体制が整っている企業では、実習生の定着率も高くなる傾向があります。

監理団体・送出機関の透明化と選定

制度の中核を担う監理団体と送出機関の質の差がトラブルの温床になることもあります。

近年では、不正行為を行った団体の資格停止処分などが実施され、透明性の確保が求められています。

企業が受け入れを検討する際には、実績や評判、報告体制の明確さを基準に監理団体を慎重に選ぶことが重要です。

また、送出国でも制度の見直しが進んでおり、ブローカーの排除費用の明確化といった対策が導入されています。

法令遵守の徹底と監視体制の強化

実習制度の適正運用には、法令の遵守が大前提です。

厚生労働省や出入国在留管理庁は、企業や監理団体への立入検査違反時の行政処分を強化しています。

今後は、監査頻度の増加やAIによる契約・労働時間データのチェックなど、テクノロジーを活用した監視も進むと見られます。

企業側としても、定期的な社内監査や第三者によるレビューを行い、法的リスクを回避する姿勢が求められます。

  • 問題の根絶は制度と現場の“両輪”から

技能実習制度の改革は、制度設計の見直しだけでは不十分です。
現場での受け入れ体制・教育・対話の仕組み作りが、実習生の安心と企業の信頼を支える土台になります。
企業・監理団体・行政がそれぞれの立場でできる改善策を実行することにより、制度は本来の「人材育成」という目的に近づいていきます。
一時的な対応ではなく、長期的・継続的な取り組みこそが制度改善の鍵となるのです。

制度改革と今後の展望

長年にわたり「国際貢献」の名のもとに運用されてきた技能実習制度は、深刻な人権問題や制度運用の歪みを背景に、ついに制度そのものの廃止が決定されました

 

現在は、新制度である「育成就労制度」への移行に向けて準備が進められています。

 

また、技能実習から「特定技能」への移行促進も注目されており、外国人労働者の立場をより安定させる流れが始まっています。

 

この章では、制度改革の全体像とその背景、そして日本が真に“選ばれる国”となるための課題について詳しく解説します。

育成就労制度への移行

現在、政府が中心となって進めているのが、技能実習制度に代わる新たな在留制度「育成就労制度」です。

この制度は、従来の“技能移転”という建前を撤廃し、人材確保と育成の両立を正面から掲げたものです。

新制度では、労働者の職場移動が可能になり、不当な拘束や人権侵害の防止に繋がることが期待されています。

また、労働分野の選定や受け入れ基準も見直されることで、より実態に即した制度運用が可能になるとされています。

企業にとっても、柔軟な人材配置や長期雇用を視野に入れた採用戦略が取りやすくなる利点があります。

特定技能への移行によるメリット

「技能実習」から「特定技能」へと制度移行を進めることには、企業・外国人双方に多くの利点があります。

特定技能は、職種に応じた試験による能力証明が必要となる一方で、在留期間の延長や家族帯同(特定技能2号)も可能になるなど、労働者の待遇面で大きな進歩があります。

また、職場間の転職も認められており、ブラック企業からの脱却や適正なマッチングがしやすくなるという点も評価されています。

技能実習を経験した者は、試験免除で特定技能へ移行できるケースもあるため、スムーズなキャリアアップのルートとしても機能しています。

技能実習制度の廃止決定とその背景

2023年、日本政府は正式に「技能実習制度の廃止」を決定し、廃止後の新制度整備を公表しました。

この背景には、過酷な労働条件や監理団体の不正行為、実習生の失踪や労災事故の多発といった深刻な問題が積み重なっていたことがあります。

国際社会からの批判も強まり、“現代の奴隷制度”とまで報道される事態に、日本のイメージにも大きな影響を与えてきました。

この改革は、「制度の根本的見直しなくして持続的な外国人受け入れは不可能である」という政府の強い危機感の表れです。

日本が選ばれる国になるための課題

今後、日本が外国人から「働きたい」「暮らしたい」と思われる国になるためには、制度改革だけでは不十分です。

多言語による情報提供、医療・教育インフラの整備、差別や偏見の解消といった社会全体の受け入れ態勢が求められます。

また、企業側も「即戦力」としてだけではなく、人材の成長とともに自社も成長するという視点が必要です。

育成就労制度が成功するかどうかは、現場での真摯な実行と、受け入れる社会全体の意識改革にかかっていると言っても過言ではありません。

  • 持続可能な受け入れ制度へ、日本の姿勢が問われる

技能実習制度の廃止と新制度の導入は、単なる法改正ではなく、日本社会の「外国人との共生」に向けた重大な転換点です。
これからの時代、日本が真に国際社会から信頼され、選ばれる国となるには、制度設計だけでなく受け入れる側の姿勢と文化の成熟が求められます
育成就労制度を単なる労働力確保の手段とせず、ともに働き、育ち合う「共育」の仕組みとして活用することが、未来の成功を左右する鍵となるでしょう。

技能実習生を職場に定着させるための工夫

技能実習制度における最大の課題の一つが、「受け入れた外国人材が定着せずに途中で失踪したり、退職してしまうこと」です。

 

この背景には、労働条件の不一致や職場環境への不安、言語・文化的な孤立感など、複合的な要因が絡んでいます。

 

単に労働力としての受け入れではなく、“人”として尊重し、共に働く仲間として迎える姿勢が求められます。

 

このセクションでは、実習生の定着率を高めるために企業ができる具体的な工夫について解説します。

日本人と同様の待遇と接し方

まず基本となるのは、日本人従業員と同じように実習生を扱うという意識の徹底です。

形式上ではなく実質的に、同一労働・同一待遇を目指すことが大切です。

賃金や残業代、休憩時間といった条件は当然ながら、「声をかける」「相談に乗る」といった日常の接し方の中にこそ定着に差が生まれます

特に上下関係の厳しい職場では、外国人が萎縮しやすくなるため、フラットな雰囲気づくりが求められます。

教育体制の整備(動画マニュアル等)

言葉の壁を越えるためには、言語に依存しすぎない教育体制の整備が不可欠です。

その一例が、視覚的に理解しやすい動画マニュアルやピクトグラムの導入です。

日本語が完璧に理解できなくても、作業の手順を“見て学べる”仕組みを用意することで、業務のミスや事故を防ぐ効果もあります。

また、業務内容のトレーニングだけでなく、日本の生活習慣やルールを説明する生活マニュアルも定着支援には有効です。

コミュニケーションの場を設ける

技能実習生が孤立せずに職場に馴染むためには、業務以外でのコミュニケーションの機会をつくることが重要です。

一例として、定期的な面談やチームランチ、レクリエーションの開催などがあります。

こうした場では、労働に関する悩みを聞き出すきっかけにもなり、「ひとりじゃない」と実感させることが離職の防止に繋がります。

また、文化や宗教についてお互いに学び合う時間を設けることで、誤解や偏見を減らす効果も期待できます。

メンタルヘルスと生活支援の強化

技能実習生は、日本での生活において家族不在・言葉の壁・経済的不安など、強いストレスを抱えやすい立場です。

そのため、メンタルヘルス支援や生活相談の窓口を社内外に用意しておくことが不可欠です。

専門のカウンセラーや通訳を通じた相談体制の整備、休暇取得の柔軟化や社宅のサポート、医療機関への同行といった細かな支援が、定着率を高める鍵となります。

また、技能実習生同士の交流促進も、孤独感を軽減し、前向きに仕事を続けるモチベーションにつながります。

  • 人材ではなく“仲間”として迎えることが定着の第一歩

技能実習生の定着を成功させるには、業務上の管理よりも“心のケア”や“信頼関係の構築”が重要です
制度や支援体制を整えるだけでなく、企業全体が実習生を対等な存在として尊重し、育てる文化を持つことが求められます。
「同じ職場で働く仲間」として接する姿勢こそが、外国人材の安定雇用と職場の活性化につながる最良の手段といえるでしょう。

技能実習生問題でよくある質問

技能実習制度について情報を集めていると、「技能実習と特定技能の違いが分かりにくい」「制度改革でどう変わるの?」「企業として採用するにはどんな準備が必要?」といった基本的な疑問や不安の声が多く寄せられます。

 

制度は複雑で、変更も多いため、正確かつ最新の情報を把握しておくことが重要です。

 

ここでは、特に質問が多い3つのポイントについて、わかりやすくお答えします。

制度改革で何が変わるの?

2023年11月、政府は技能実習制度の廃止と新制度「育成就労」への移行を正式に発表しました。

この新制度では、「人材育成」から「労働力確保」への目的の明確化が図られ、実態に即した内容に近づいています。

たとえば、以下のような変更点が予定されています。

  • 転籍(他社への移動)制限の緩和 – パワハラや賃金未払い時に移籍しやすくなる

     

  • 試験制度の明確化と段階的評価 – 技能や日本語能力を客観的に評価

     

  • 監理団体の監視強化 – 透明性のある支援体制を実現

     

  • 雇用主の責任強化 – 教育・生活支援などの義務が明文化される見込み

これにより、企業にとっては従来よりも人材管理や育成に対する責任が明確化される一方で、働きやすく魅力的な職場を構築すれば、定着率の向上が期待できるとも言えます。

企業が採用する際の注意点は?

企業が外国人技能実習生や特定技能外国人を採用する際には、法令遵守と支援体制の構築がカギとなります。以下の点に特に注意が必要です。

  • 労働基準法を守ることは絶対条件 – 最低賃金、残業代、有給休暇などを日本人同様に適用

     

  • 外国人に合わせた研修制度や生活支援の整備 – 言語や文化の壁を配慮した教育体制が必要

     

  • 監理団体や登録支援機関の選定 – 信頼できる組織との連携が、定着とトラブル回避につながる

     

  • 家族や地域との連携 – 孤立を避けるために、地域社会とのつながりを意識する

また、採用前に面接だけでなく、相互理解を深める説明会や職場見学を実施することで、ミスマッチを減らす工夫も重要です。

  • 正しい理解と事前準備が、外国人雇用の成功を支える

技能実習制度や特定技能制度は、外国人材の雇用において非常に大きな役割を果たしていますが、十分な理解と事前の体制づくりが不可欠です
よくある質問の答えを知ることで、トラブルを未然に防ぎ、実習生本人にも企業側にも“ウィン・ウィン”の関係を築くことができます。
将来的には制度の改革も進むため、今後も最新の動向に目を向けながら、責任ある受け入れ体制を構築していくことが求められます。

現場の本音に迫る!受け入れ企業と実習生のリアルなギャップとは

制度上は整備されているはずの技能実習制度。

 

しかし実際の現場では、企業側の期待と実習生側の実力や認識が食い違う場面が多々あります

 

「こんなはずじゃなかった…」という不満は、企業・実習生双方に共通しており、見落とされがちな“現場の本音”に耳を傾けることが、制度活用の成功に直結します

 

ここでは、リアルな現場で生じている代表的なギャップとその背景、そして具体的な解決策について掘り下げていきます。

採用時の期待と実際のスキルのズレ

企業が実習生を受け入れる際、多くの場合は「ある程度の業務がすぐにこなせるだろう」という期待を抱いています。

しかし、実際には道具の使い方や作業手順、作業スピードに大きな差があることも珍しくありません。

これは、日本と送り出し国との訓練環境や教育水準の違いに起因しており、「母国で経験がある」とされる技能も、日本の基準で見ると未熟に映るケースがあります。

また、現場では指示の理解不足や判断力の欠如が課題になることもありますが、それを「やる気がない」と誤解してしまうと、信頼関係の構築は難しくなります。

期待値の明確化業務内容の分解・見える化(マニュアル化)を通じて、双方の理解をすり合わせる取り組みが求められます。

「言った・聞いてない」言語トラブルの現場例

コミュニケーションの多くが日本語またはカタコトのやり取りになる中で、日常的な指示伝達が原因となるトラブルは後を絶ちません。
たとえば以下のような現場の声があります。

  • 「これ終わったら次やっておいて」と伝えたが、実習生は“次”の意味が分からなかった

     

  • 「しばらく待って」と言われた実習生が1時間待ち続けてしまった

     

  • 安全ルールを伝えたつもりが、実習生は理解していなかった

こうした例では、「言ったはず」「聞いてない」のすれ違いが感情的な対立へ発展することもあります。

単語の意味や敬語、業界用語の壁は想像以上に高く、通訳がいても現場のニュアンスを正しく伝えるのは困難です。

解決の鍵は、単語ではなく図解や身振りを交えた指導方法や、翻訳アプリを併用した確認作業をルール化することにあります。

文化的誤解が招く摩擦とその解消法

実習生は異なる文化や宗教的背景を持っており、日本人には想像できない価値観のもとで行動しています。
たとえば次のような例があります。

  • 「目を合わせて話さない」のは無礼ではなく、母国では礼儀の一つ

     

  • 食事を断るのは、ハラールや宗教的理由によるもので差別ではない

     

  • 礼儀作法や指示に対する反応が、文化的に異なる

これらを「失礼だ」「意欲がない」と受け止めてしまうと、誤解が誤解を生み、関係性の悪化や早期離職につながりかねません。

対応のポイントは、受け入れ企業側が多様性に対する理解を持つこと
研修で基本的な文化知識を共有したり、実習生の背景を尊重する姿勢を社内全体に根付かせることが、スムーズな関係づくりの第一歩です。

  • 制度の前に「相互理解」こそが定着の鍵

技能実習制度が機能するかどうかは、書類上の準備よりも、現場での人と人との理解にかかっています。
期待と現実のギャップ、言語や文化の違いはあって当然ですが、そこで対立ではなく歩み寄りができるかどうかが、実習生の定着と企業の安定的な人材確保を分けるポイントです。

“実習生”ではなく“仲間”として迎える姿勢こそが、真の共生社会への一歩となるでしょう。

制度の転換期にある今こそ、現場目線での見直しが求められている

技能実習制度は、本来「国際貢献」の名のもとに始まりましたが、現実には低賃金労働力としての依存構造人権上の課題が多く指摘されてきました。

 

とくに近年は、失踪や労働災害、ハラスメントといった深刻な問題が顕在化し、制度自体の見直しが急務とされています。

 

制度上のルール整備や監理団体の監視強化といった表面的な対策だけでは、根本的な解決には至りません。

 

企業側の受け入れ姿勢、現場でのコミュニケーション、文化的背景への理解不足など、現場レベルでの“意識改革”こそが制度改善の鍵を握っています。

 

今後は「技能実習制度」から「育成就労制度」への移行が進み、特定技能とのハイブリッド的な運用が主流になる可能性があります。

 

人材を一時的な労働力ではなく、共に働く“仲間”として育てていく姿勢が、企業の信頼構築と持続可能な人材確保につながるでしょう。

 

制度改革の過渡期にある今だからこそ、“制度”ではなく“人”に向き合う視点が求められています。

 

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