12/05 (金)更新
外国人従業員の年末調整 — 基本と注意点をわかりやすく解説
外国人を雇用している企業では、年末調整の時期になると「外国人従業員も対象になるのか」「非居住者の場合はどう処理すべきか」といった疑問が多く寄せられます。
実は、在留資格や滞在期間、居住区分によって年末調整の要否や方法が変わるため、正しく理解していないと税務上の誤りやトラブルにつながることもあります。
本記事では、外国人従業員を雇用する企業担当者に向けて、年末調整の基本から外国人特有の扱い、注意すべき実務ポイントまでをわかりやすく整理します。
国税庁や専門会計事務所の解説をもとに、実際の現場で役立つ実務的な知識をまとめています。
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年末調整とは/日本における給与税務の基本

企業が従業員に給与を支払う際には、所得税を天引き(=源泉徴収)し、年末に正しい税額へと精算する必要があります。
この一連の流れが「年末調整」であり、年間を通じて納めすぎた税金の還付や、不足分の徴収を行う重要な手続きです。
外国人従業員を雇用している場合でも、一定条件を満たせば日本人と同様の扱いとなるため、まずはその仕組みを正確に理解しておくことが大切です。
年末調整の目的と流れ — 源泉徴収との関係性
日本では、給与支払時に所得税を概算で源泉徴収し、企業が従業員に代わって納税します。
しかし毎月の源泉徴収額はあくまで暫定的なものであり、扶養家族の増減や保険料控除などを反映して最終的な税額を確定するのが年末調整です。
通常、12月の給与支給時に実施され、過不足があればその月の給与で還付または追加徴収が行われます。
年末調整で調整される税金と控除の概要(所得税・各種控除)
年末調整の対象となる税金は所得税および復興特別所得税です。
主な控除項目には、基礎控除・配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除・生命保険料控除などがあります。
これらの情報は従業員が提出する各種申告書(扶養控除等申告書や保険料控除申告書)に基づいて計算されます。
正しく処理すれば、従業員は確定申告を行わなくても税務が完結します。
だれが対象になるか — 給与所得者か、複数雇用か、その他収入の有無での違い
年末調整の対象は、1か所の勤務先から給与を受けている人です。
副業や複数の勤務先がある場合、または不動産・株式など他の所得がある場合は、本人による確定申告が必要になります。
また、年の途中で退職した従業員や短期雇用者は、原則として年末調整の対象外です。
この基本を押さえることが、外国人従業員を含めた正しい給与処理の第一歩になります。
年末調整は「年1回の税務調整」
年末調整は、1年間の所得税を正確に計算し直す年に一度の重要な税務調整です。
源泉徴収の仕組みや控除内容を理解していれば、税金の過不足を防ぎ、従業員からの信頼にもつながります。
外国人従業員を雇用する企業にとっても、この基礎を正しく理解することが正確な労務管理の出発点です。
外国人が「年末調整の対象」になる条件

外国人従業員が年末調整の対象になるかどうかは、税法上の居住区分によって判断されます。
日本国内で働いていても、滞在期間や在留資格の内容によっては「非居住者」と見なされ、年末調整を行わないケースもあります。
ここでは、外国人特有の区分や要件を整理し、実務上の注意点を解説します。
「居住者」「非永住者」「非居住者」の区分と影響 — 在留資格・滞在期間の考え方
外国人を税務上で区分する際、最も重要なのが「居住者」か「非居住者」かという点です。
原則として、日本に住所がある、または1年以上日本に滞在している外国人は居住者に分類されます。
居住者のうち、日本国外からの収入が一部課税対象外となる「非永住者」も存在します。
一方で、滞在期間が1年未満の非居住者は、日本国内で得た給与所得のみに課税され、年末調整の対象外です。
この区分を誤ると、税金の過不足や二重課税などの問題を引き起こすため、採用時点で在留期間・資格を確認しておくことが重要です。
外国人従業員が年末調整を受ける場合の要件 — 扶養控除申告書の提出など
税理士法人いぶき会計によると、外国人従業員が年末調整を受けるためには、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出が必須です。
この書類を提出していない場合、その従業員は「乙欄」として課税され、毎月の源泉徴収税率が高くなります。
また、海外に住む家族を扶養に入れる場合は、送金証明書・身分証明書・翻訳書類などの追加資料が必要です。
これらの提出が不十分だと、控除が認められず過剰課税となることもあるため注意が必要です。
年の途中で入国・出国した場合の扱い — 対象になる給与の範囲など
外国人が年の途中で日本に入国・出国する場合、年末調整の対象となるのは日本国内で得た給与のみです。
たとえば、途中で帰国して退職した場合は、年末調整は行わず、本人が翌年に確定申告を行う形になります。
逆に、年の途中で来日し勤務を開始した場合は、来日後に支払われた給与が対象です。
この取り扱いを理解していないと、未調整の所得が残る可能性があるため、企業側の確認が不可欠です。
居住区分と書類確認が正確な年末調整の鍵
外国人の年末調整を正しく行うためには、居住者か非居住者かを明確に判断し、扶養控除等申告書の提出状況を管理することが欠かせません。
特に海外家族を扶養に入れるケースや入出国時期が絡む場合は、追加資料を丁寧に確認する必要があります。
制度の理解と適切な書類管理により、企業として税務リスクを防ぎ、外国人従業員からの信頼も高めることができます。
外国人を雇用する企業が押さえるべき実務チェックポイント

外国人を雇用する企業は、年末調整において税務処理・書類管理・説明対応の3点を的確に行う必要があります。
特に居住区分の違いや海外親族の扶養控除など、日本人従業員とは異なる点を理解しておかないと、過剰徴収・控除漏れ・税務署からの指摘といったトラブルに発展しかねません。
ここでは、担当者が最低限押さえておくべき実務ポイントを整理します。
源泉徴収の方式 — 居住区分による税率の違い
外国人従業員が「居住者」か「非居住者」かによって、源泉徴収の方法が大きく変わります。
居住者の場合は、日本人と同じく扶養控除申告書を提出すれば「甲欄」で課税されます。
一方、非居住者の場合は扶養控除が適用されず、一律20.42%の源泉徴収税率が課されるのが原則です。
さらに、海外送金や一時帰国時の支給などにも課税対象が及ぶ場合があるため、在留資格や滞在期間の確認は必須です。
扶養控除や配偶者控除の扱い — 海外に住む親族がいる場合の申告と証明書類の準備
海外に家族がいる外国人従業員が扶養控除を受ける場合、送金証明書・親族関係書類(翻訳付き)などの証明が必要です。
この書類が揃っていないと控除が適用されず、課税額が増えることがあります。
また、親族がその年に実際に生活を共にしているか、日本から仕送りを受けているかが判断基準となります。
企業としては、毎年年初に書類の提出期限と必要書類一覧を明示しておくと、トラブルを防ぎやすくなります。
年末調整での還付/追加徴収後の支払と、確定申告の案内体制
年末調整を行った結果、税金の過不足が発生した場合の処理にも注意が必要です。
還付がある場合は12月給与で支給し、不足があれば差引控除を行います。
ただし、年の途中で退職・帰国する外国人や、非居住者扱いとなった従業員は、年末調整ではなく確定申告によって清算する必要があります。
企業としては、対象となる外国人従業員に対し、確定申告の必要性や手続き方法を案内できる体制を整えておくことが理想です。
「確認」「証明」「案内」の3つでトラブルを防ぐ
外国人の年末調整を円滑に進めるには、①居住区分の確認、②証明書類の整備、③確定申告案内の3点が鍵です。
これらを仕組み化しておくことで、税務処理の正確性と従業員の満足度を両立できます。
外国人雇用が増える今、こうした実務対応力は企業の信頼を高める要素にもなっています。
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よくあるトラブルとその予防策

外国人従業員の年末調整では、居住区分や扶養控除の取り扱いミスが原因となるトラブルが多発しています。
これらの多くは、事前確認や書類管理の徹底で防げるものばかりです。
企業担当者が知っておくべき典型的なミスと、その予防策を見ていきましょう。
在留区分の誤認 — 非居住者扱いなのに年末調整を行ってしまうケース
最も多いのが、非居住者を誤って居住者扱いして年末調整してしまうケースです。
非居住者は年末調整の対象外であるため、給与支給時には20.42%の源泉徴収が必要です。
在留カードの有効期限や滞在期間を確認せずに処理すると、後から税務署からの修正指導を受ける可能性があります。
採用時および年末調整前に「居住者判定チェックリスト」を運用することで防止できます。
扶養控除申告漏れや証明不足による控除適用ミス
海外扶養親族の証明書類が提出されていない、もしくは書類不備があるまま処理してしまうと、控除が認められません。
この場合、後に本人負担で修正申告が必要となることもあります。
企業側は、年初に必要書類のリマインドと提出期限管理を徹底することが重要です。
特に外国語で書かれた書類には翻訳文を添付するよう指示しましょう。
複数雇用や副業、年収や他収入がある外国人への対応漏れ — 確定申告必要性の確認不足
外国人従業員の中には、複数の勤務先から給与を受け取っている人や、副業・海外収入を持つケースがあります。
こうした場合、年末調整だけでは正確な所得税の清算ができないため、本人が確定申告を行う必要があります。
企業としては、該当する可能性がある従業員をリストアップし、必要に応じて案内することが望ましいです。
まとめ|「事前確認」と「書類管理」がミス防止の鍵
外国人の年末調整トラブルの多くは、制度理解不足と確認漏れに起因します。
居住区分のチェック、証明書類の徹底管理、複数雇用者への事前ヒアリングを習慣化することで、リスクを大幅に軽減できます。
結果的に、企業の税務コンプライアンスと従業員満足度の両方を向上させることにつながるでしょう。
外国人雇用企業のための年末調整運用チェックリスト

外国人従業員を雇用する企業にとって、年末調整は単なる税務処理ではなく、信頼関係の維持と法令遵守の両立を図る重要な業務です。
特に居住区分や扶養控除の取り扱いは日本人と異なる点が多く、ミスが起きやすい部分でもあります。
以下では、外国人従業員を雇用する際に企業が押さえておくべき年末調整運用の4つの基本チェック項目を紹介します。
入社時に在留資格と居住区分を確認・記録
入社時点で必ず行うべきなのが、在留資格・滞在期間・居住区分の確認と記録です。
在留カードの有効期限や滞在期間を確認し、「居住者」「非居住者」どちらに該当するかを判断します。
特に在留期間が1年未満の場合は非居住者扱いとなり、源泉徴収率や控除の取り扱いが異なります。
この情報を社内で共有できるよう、労務管理システムや人事台帳への登録を徹底しましょう。
扶養控除等申告書の提出と、海外親族がいる場合の証明の取得依頼
外国人従業員が年末調整を受けるには、「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出が必要です。
さらに海外に扶養親族がいる場合は、送金証明書や親族関係書類(翻訳付き)の提出も求められます。
これらを年末直前にまとめて依頼すると、書類の準備が間に合わないケースが多いため、年初または入社時に早めに案内しておくのが理想です。
提出状況を一覧で管理できるチェックシートを運用すれば、提出漏れを防止できます。
源泉徴収設定(居住者 vs 非居住者)を適正に行う運用体制の整備
居住区分に応じて源泉徴収方法を分けることも重要です。
居住者であれば通常どおりの「甲欄」課税が適用されますが、非居住者の場合は扶養控除がなく、一律20.42%課税となります。
これを誤って処理すると、後から税務署からの是正を求められることがあります。
給与システム上で居住者・非居住者を識別できる設定項目を設け、担当者が変更時に必ず確認できるフローを整えておくことが大切です。
年末に還付/追加徴収の内容を外国人従業員に丁寧に説明・通知
年末調整の結果、還付や追加徴収が発生する場合は、外国人従業員にもわかりやすく説明する姿勢が欠かせません。
特に税制度に不慣れな外国人は、「なぜお金が戻るのか/引かれるのか」を理解できず、不安を感じることがあります。
簡単な説明文を多言語(英語・母国語)で添付したり、担当者が対面で説明することで、誤解や不信感を防げます。
こうした丁寧な対応は、結果的に企業への信頼向上と定着率の改善にもつながります。
制度理解と仕組み化で「ミスゼロ」運用を実現
外国人従業員の年末調整を円滑に行うには、確認・書類・システム・説明の4点を標準化することが鍵です。
入社時から情報を整理し、書類提出と課税設定を適正に管理すれば、税務リスクを最小限に抑えられます。
制度を”人頼み”にせず仕組みで支える体制を築くことで、企業全体の信頼性とコンプライアンスを高めることができるでしょう。
まとめ|外国人従業員の年末調整を正確に行うために

外国人従業員を雇用する企業にとって、年末調整は税務処理の正確さと信頼構築の両立が求められる重要な業務です。
まず、年末調整の基本構造を理解し、源泉徴収との関係・対象者の判断基準・控除項目の整理を正確に押さえることが第一歩です。
次に、外国人特有の論点として、「居住者」「非居住者」などの区分判断や、海外に住む家族を扶養に入れる際の証明書類など、通常の年末調整よりも手続きが複雑になります。
特に、在留期間や入出国のタイミングを誤認すると課税ミスにつながるため、初期段階での情報確認が不可欠です。
さらに、企業側の実務では以下の3つが重要な柱となります。
- 居住区分に応じた源泉徴収設定の正確化
- 証明書類(扶養・送金・翻訳)の早期回収と管理
- 還付・追加徴収の内容説明を含めた従業員対応の丁寧さ
これらを仕組みとして整備することで、ミスを未然に防ぎ、税務署対応や従業員トラブルのリスクを最小限に抑えられます。
今後、外国人雇用が増えるなかで、「制度理解 × 運用設計 × コミュニケーション」を意識した年末調整運用こそが、企業の信頼と労務品質を支える重要なポイントになるでしょう。
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